プロジェクトマッピングはリアルをソーシャルへ拡張する

ずっとライブも含めた『場』に音楽ビジネスはシフトしていくべきだと書いてきた。(個人的にはCD大好きなのだが)そういった流れの中でやはり、リアルで音を鳴らす。音を聴かす。音を見せることが重要な要素となっていくと思うのだけど、今回はここ数年イベントやプロモーションで実施されているプロジェクトマッピングについて考えてみたい。

プロジェクトマッピングとは、建物などの凹凸をあらかじめ3Dデータ化しておいて、その表面に立体的な映像をプロジェクターで映写する技術のことだ。プロジェクトマッピングと音楽とソーシャルというのは、とても親和性が高い組み合わせかもと思っている。

リアルとバーチャルの垣根を超える

プロジェクトマッピングではラルフ・ローレンが4Dファッションショーがいちばん有名かもしれない。ご覧になった方も多いと思う。

プロジェクトマッピングの素晴らしいところは、リアルでは強烈な「体験インパクト」を生み出し、バーチャルでもリアルに近い感覚の疑似の「体験インパクト」を創出することができる点だろう。

そして、リアルで観る、バーチャルで観るに問わず、すぐさま共有されることが可能な技術だからだ。

3Dメガネもいらない。必要なものは何も無い。
それだけオーディエンスには参加しやすいハードルの低さとそれに相反する圧倒的なクオリティが、ソーシャルの力によって、共有され、共感される。

あるべきものがあるべきではない形に変化し、想像を超える。
音と光と造形物が見事に融合し、それはある種の化学反応を生み出し、強い「ソーシャルレゾナンス:共鳴」を引き起こす。
プロジェクトマッピング自体がもはや極めて高いライブ性を兼ね備えている。

ライブやフェスでこのプロジェクトマッピングはいろいろな可能性を秘めていると思う。音楽をリアルで聴くだけじゃなくて、観る。体感する。それは『音』だけである必要はない。視覚的に訴求する方法はいくらでもある。

それは凝ったステージセットかもしれないし、照明かもしれないし、映像かもしれない。
ただ、プロジェクトマッピングをもし音楽ライブで適用させる場合はプロジェクトマッピングに負けない楽曲であり、アーティストスキルであり、ライブパフォーマンスが必要だ。

プロジェクトマッピングはひとつの引き出しでしかない

プロジェクトマッピングがメインになっては元も子もない。
音楽ライブの場合、あくまで主役は音楽なのだ。
プロジェクトマッピングに飲み込まれるようなアーティストならやる必要はないし、やってはいけない。

プロジェクトマッピングはコストもかかるだろうし、誰もができるわけでもない。場所にも非常に依存するものだし、汎用性も高くない。

だから、簡単にできることではないが、これからのリアルの価値を高めていく上で、プロジェクトマッピングというものは、ひとつの選択肢として、ひとつの引き出しとして、可能性はあるのではないかなと思っている。

重要なのは、プロジェクトマッピングはあくまでツールでしかないということだ。
ソーシャルメディアも同様にプロジェクトマッピングをやることが目的になってしまったら本末転倒だ。

プロジェクトマッピングを通して、その音楽ライブはどこに着地させるのかを明確に決める必要がある。プロジェクトマッピングもクワトログラフの中のひとつのリレーショングラフだ。ひとつのフックとして、プロジェクトマッピングからの広がりを意識した設計が必要なのではないか。

さて、プロジェクトマッピングはリアルとバーチャルをつなぐ力を持っている。
リアルに参加する人はきっとほとんどの人が自身のカメラで撮影し、facebookなり、youtubeにアップロードするだろう。
そして、そこに集うソーシャルグラフ、インタレストグラフに伝搬していくだろう。

リアルからソーシャルへ拡張していくことができるもののひとつがプロジェクトマッピングだと思う。さきほどのキリストのキャンペーンがいい例だ。

チェコのプラハの天文時計は、建立600周年を記念し、プロジェクトマッピングを行った。それは過去に光をあてることであり、チェコを、プラハに光をあてることにつながる。私はむかし、この時計台を訪れたことがあったので、また訪れてみたくなった。

余談だが、ソーシャルでプロジェクトマッピングをアップロードする際はほぼ間違いなく動画投稿サイトになるわけだけど、そこも単にyoutubeではなく、vimeoのように縦長で見せるということが可能なものもあるのでツールの選定は企画の際に考える必要がある。

VJとはまた違う新しい形での音楽と映像の融合。
そこに建築という要素が加わることで、新しい体験価値やリレーショングラフから音楽だけでなく、その建築物にも新たな光や話題性をも供給できる可能性を含んでいる。

プロジェクトマッピングは共鳴を拡張させる

まず音源ありき、アーティストスキルありき、そもそものライブパフォーマンスありきだが、それが伴った上でプロジェクトマッピングのような音楽×映像や音楽×照明の化学反応はオーディエンスに唯一無二の特別な瞬間を与える。

生で見て、心が震え、この目に見える光景を残しておきたい。だから人は写真を撮り、動画を撮る。そして、共有する。
音源だけでなく、ライブ自体ももっと開放されていくべきだ。どれだけ違う切口で、そのアーティストないしライブの種を蒔くことができるか。そのためにはソーシャルメディアの力が欠かせない。

オーディエンスに委ねるライブも、これからは増えていくだろう。
すべてのライブがそうなるべきでは、もちろんないが、プロジェクトマッピングのような可能性のあるものを駆使し、リアルからソーシャルへ拡張させる力をプロジェクトマッピングは持っていると思う。

車メーカーのヒュンダイがシンガポールで実施したプロジェクトマッピングのプロモーションも、もはやライブだ。プロジェクトマッピングから「ソーシャルレゾナンス:共鳴」がリアル、バーチャルを通してオーディエンスは「共感、共鳴」の過程を経て、記録・共有したいと思ったのだ。それが例え1回こっきりしか見なかったとしても、その体験記憶が残され、語られる。

相互に高めあうからこそ価値が生まれる

ライブは音楽だけで成立するものではない。かといって、音楽が他の要素に消されてしまっても意味がない。いかに相互で高めあえるか。

ライブでいえば、音楽と映像と照明が完璧に同期した瞬間などは言葉では表せない圧倒的な高揚と興奮と共鳴を生み出す。そのひとつとしてライブ前のプロローグでもいいし、まさしくライブ中でもいいしプロジェクトマッピングという手法が活かされていくともっとリアルの価値が高まっていくのになあと思っています。

同時にライブの場所というもの概念自体も変化していく可能性を秘めている。それは音楽を体感する場所いうものも拡張させる。
許可等の問題はあるにせよ、今まで発想することすらなかった場所がある日突然ライブ会場になる可能性を含んでいる。音楽の視聴形態は変わった。これからもっと変わっていくだろう。同時にライブという視聴形態だっておおいに変わってきてもおかしくはない。

さて、実際にプロジェクトマッピング×音楽ライブの例もすでにみられる。
2009年5月、フランス・リヨンで行われたパフォーマンスでAntiVJというビジュアル集団が鋭利で複雑なファサードを持つ氷山のようなステージセットを制作した。

プロジェクトマッピングというと、このブログにも参考で記載した大掛かりで壮大なものを連想してしまいがちだけれど、このような比較的ミニマムなプロジェクトマッピングもひとつの方法論だと思う。

広告はやはり『話題になる』『人の目に留まる』という要素は大切な部分だが、音楽×プロジェクトマッピングの場合、『話題になる』『人の目に留まる』に加えてリアルの共鳴の場を増幅させる装置として、音楽とプロジェクトマッピングというのは大きな可能性を秘めているような気がしている。

最後に、個人的にはDaft Punkとプロジェクトマッピングを合わせたライブを展開してほしいなと思います。組み合わせとしては最強のような気がしています(笑)


こちらの記事はTMHブログポータルの方にも転載いただいております。このブログは個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。