クワトログラフで共有、共感の架け橋を作る

前回のブログで『音でもいいし、それ以外でもいい。とにかくいろいろな切り口、フックで共有、共感される架け橋を作り出せるかが今後大切なことになっていく』と書いた。

今回はこの「いろいろな切り口、フック」を掘り下げてみようと思う。

人から音楽を知る:ソーシャルグラフとインタレストグラフ

これは言うまでもなく「ソーシャルグラフ」、「インタレストグラフ」を中心にした伝播だ。リアルで、バーチャルで「この曲いいよ」と勧められたり、信頼している友人、知人が聴いている曲がタイムラインやフィードに流れてきて聴いてみたりするパターン。

もしそのソーシャルグラフがインタレストグラフからの統合であった場合、その結びつきはより強くなる。
「人から音楽を知る」ことは最も効果的な方法のひとつだが、ある種の限定的なサークルが生まれてしまうリスクも孕んでいる。
つまり、圧倒的な広がりは生みにくいような気がしている。

例えば、Sigur Rosの「vaka」という曲をオススメだと、私が言ったとして私のソーシャルグラフ、インタレストグラフ内でSigur Rosが好きな人は当然知っているわけなので、共有よりも共感が先立つ。

音楽という極めて細分化されているものは、ソーシャルグラフ、自分と同じ趣味趣向のインタレストグラフ内ではそこまでの広がりは見せない。
言ってしまえば、全くないとは言わないが、セレンディピティが低いのだ。

唯一あるとすれば、同じ趣味趣向の人でSigur Rosを知らない人だけだ。もちろん、アーティストによって多分に変化することを付け加えておく。

つまり、音楽というジャンルの場合、ソーシャルグラフや自分と同じ趣味趣向の人たち内でしか共有、共感はされにくいので、「狭く、深く」しかいかない。

それはひとつの側面からすればとても大事なことだが、より多くの人に共有、共感されるためには「人から音楽を知る」だけでは足りない。

音楽から音楽を知る:ミュージックグラフ

「音楽から音楽を知る」方法はたくさんある。amazonやiTunesで購入した際のリコメンドもひとつだし、リアルの店舗での視聴やポップもそのひとつだ。フェスのwebキャストや音楽共有サービスもこれに当てはまる。

その「音楽から音楽を知る」ことを可視化したのがアジアン・カンフー・ジェネレーションが実施した「マジックディスク」だ。

magicdisc.png
ある音楽を登録すると、同様に登録したユーザが表示され、そのユーザをクリックすると、そこからその人が登録した音楽のグラフが表示される。

言わば音楽が人を介して音楽を連れてくるまさしく「ミュージックグラフ」だ。

このミュージックグラフには考えてみると2種類ある。
マジックディスクのように「人を介して音楽の系譜を可視化させるもの」と「好きなアーティストの音楽の系譜を可視化させるもの」だ。

マジックディスクの素晴らしいところはインタレストグラフを可視化させた点にあると思うのだけど、一方「好きなアーティストの音楽の系譜を可視化させるもの」はあまり見たことがない。あるとすればウィキペディアくらいかもしれない。

例えば、今年サマーソニックにも出演するイギリスの新人バンド「VIVA BROTHER」というバンドは90年代のブリットポップの影響を公言している。もっと具体的にいうとOasisだったり、Blurとインタビューでは答えている。

そこで、重要なのはその「VIVA BROTHER」が生まれた音楽の系譜は可視化できないのか。もっと言うなら、その音楽の系譜を共有できないのかという点だ。

そのアーティストが生まれた音楽の系譜を可視化させると、それはまるで蜘蛛の巣のようなグラフができることになる。
縦の系譜で言えば、「VIVA BROTHER」が影響を受けたのはOasis、Blurであり、Oasisが影響を受けたのはThe BeatlesやThe Roling Stonesなどがあり、Blurが影響を受けたのはThe Jesus and Mary ChainやThe Jamなどといった音楽の系譜ができる。(※異論反論あると思いますが、わかりやすくするためにあえて「超」簡略化してます 。)

そして、その横には同時代の影響を与え合ったアーティストだったりがそれぞれの時代ごとに連なり、更に斜めには音楽ジャンルという軸が加わる。 アーティストというのはその時代時代によって音楽性を変える(全部のアーティストがというわけではないけど)。

その時々に影響を受けた音楽やジャンルが加わることで、音楽的系譜×音楽的影響×音楽ジャンルの縦と横と斜めの3軸となる。

それに加えて更にミュージックグラフを突き詰めて行くと時代の音楽シーンがある。例えば、ブリットポップであり、マッドチェスターである。
そこからまた。そこからまた。

そういったグラフを知る方法としては、ウィキペディアで調べるか、映画や雑誌を読み漁るかライナーノーツを読むなどといった自分で行動を伴うものが多い。圧倒的な興味関心がないとまず動かない。

それをソーシャルの力で「好きなアーティストの音楽の系譜を可視化させるもの」があってそこで当然曲も聴けたり、共有できる仕組みがあったら、前述の「人から音楽を知る」に加えて、広く届けることができるかもしれないなあと思っている。そこをSpotifyあたりが生み出してくれるような気がしているが、Spotifyの記事は別の機会に。

さて、「VIVA BROTHER」を知らなくても「Oasis」は好きかもしれない。
すると過去を遡る音楽の系譜だけじゃなく、過去から現在への音楽の系譜も生み出すことができる。
それは洋楽と邦楽の垣根すら場合によっては越える。ヘビーユーザ専門のはずだった「ミュージックグラフ」がソーシャルの力によってライトユーザにも波及する可能性がある。

文字通り、縦横無尽に音楽の系譜を知る、共有する。過去の音楽と現在の音楽をソーシャルの力でつなげる。あらゆる音楽的入口を設ける。

もちろん、音楽に関して言えば「ミュージックグラフ」だが、音楽以外になれば名称は変わる。 このように、「ソーシャルグラフ」「インタレストグラフ」「ミュージックグラフ」

これだけでもまだ音楽を広く届けて共有、共感してもらうには要素が足りない。

音楽以外からその音楽を知る:リレーショングラフ

音楽を知るきっかけは何も音楽じゃなくてもいい。様々な入口から音楽を知ることはできる。それがリレーショングラフだ。

この際のリレーショングラフは「人」ではなく「モノ、コト」として定義する。いちばんポピュラーなのは、映画のサントラだ。これは映画→音楽の流れもあるし、音楽→映画という流れもある。

ソフィア・コッポラの映画「somewhere」を例にとろう。「somewhere」はハリウッド俳優の父とその娘の関係を描く映画だがその映画にはいろんな要素が散りばめられている。

・ソフィア・コッポラ監督作
・ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞
・映画音楽
・主人公が泊まっている有名なホテル
・娘が朝食を作るエッグベネディクト(見た人はわかると思いますが、めちゃくちゃ美味しそうなんです)
・ダコタ・ファニングの妹エル・ファニング出演
・ストーリー

ここから広がって映画を見てもらえるきっかけは

・ソフィア・コッポラ
・音楽
・旅行
・食
・映画
・役者
・ファッション
・親子の絆

ひとつの映画の中でこれだけのリレーショングラフをもう少しつっこめばもっともっと上記カテゴリは細分化できる。映画というものに対してあらゆる角度からリレーショングラフを集めることができる。

「somewhere」を見て、ソフィア・コッポラの他の映画を観るかもしれないし、映画音楽の良さからThe Strokesを聴くかもしれないし、映画の舞台になったハリウッドにあるシャトー・マーモントに泊まりたくなるかもしれないし、映画に登場するエッグベネディクトを食べたくなるかもしれないし、エル・ファニングがあまりにもかわいすぎて、彼女の他の作品を観てみたくなるかもしれない。たまにはオシャレをして、お父さんと娘がご飯を食べることがあるかもしれない。

それを「映画を見るまで→見たあと」という導線設計を行い、リレーショングラフがぐるぐる回るようにすると、「somewhere」という映画を広く届けることができるのではないか。

それらを音楽や映画という『場』から放射線のように広がらせる。そして、その放射線を直線から曲線へ変化させる。ソーシャルターミナルというのは、音源や映像だけにあらず、そこにまつわる様々なリレーショングラフを集め、つなげることに意味がある。

BlurやGorillazの中心的人物のイギリスのミュージシャン、デーモン・アルバーンはアフリカン・エクスプレス・プロジェクトというものを行っている。

これはアフリカの貧困の撲滅の実現のために世界各地で支援活動を行っているオックスファムとのコラボレーション・プロジェクトで、作品の収益からはオックスファムが寄付を受け取ることになっている。

oxfam.png

このようにデーモン・アルバーンのことなんて知らないし、音楽も聴いたことはないけれど、貧困問題に対して意識を持っている人や、オックスファムを始めとしたNPOに興味のある人はデーモン・アルバーンの活動を知ったら、興味を持ってくれるかもしれない。

アフリカン・エクスプレス・プロジェクトの音楽を聴いてくれるかもしれない。

あわよくば、BlurやGorillazの曲を聴いてくれるかもしれない。そこからまた。そこからまた。

その逆もまたデーモン・アルバーンからオックスファムやNPOに興味を持つかもしれない。右から左へ。左から右へ。上から下へ。したから上へ。

前述のSigur Rosも同様にあらゆる切り口ならば楽曲以外の方法で興味を持ってもらえるかもしれない。

最近で言うと、レディー・ガガを始めとした音楽、ファッション、ポップ・カルチャー、スポーツの150人以上のスターが集い、ソマリアと東アフリカの食料危機に注目してもらうため8/9にtwitter,facebookを使って世界7億人のオーディエンスに呼びかけるという。ソーシャルメディアのキャンペーンを行う予定だ。中身は食料や水、薬品などのための基金を集めセイヴ・ザ・チルドレンを支援するものだ。これもひとつのリレーショングラフにあたるのではないかと思う。

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ただ、もっとシンプルに考えれば、好きなアーティストが好きなモノやヒト、コトを、リレーショングラフで紡ぐこともそのひとつ。そういう戦略をやっているアーティストもたくさんいる。なので、目新しいことではない。

ただ、あらゆる関連性の要素を作り出すことで、多くの可能性が生まれるのではないかと思っている。ローカル性などもリレーショングラフとは相性はいいはずだ。

グラフを組み合わせて音楽を知る:クワトログラフ<

大切なことはひとつのグラフだけではないところ。

「人」と「音楽」と「音楽から派生するもの」のグラフをいかにまとめあげ、つなげることができるか重要だと思っている。
音楽でいえば、グラフを「ソーシャルグラフ」、「インタレストグラフ」、「ミュージックグラフ」、「リレーショングラフ」の4分類で組み合わせることだ。

つまり、クワトログラフ。
それらのグラフをあやとりのようにいかに縦に紡ぎ、横に紡ぎ、斜めに紡ぎ、綺麗な造形を描けるか。しかしながら、はっきり言ってめんどくさい。相当めんどくさい。

だけど、音楽はもう大きな括りじゃ刺さらない。

小さな小さな点を集めて、広げて、そのバラバラな点を糸で紡いで、ひとつの『線』を生み出す必要がある。 当たり前だが、人の好みはひとつだけじゃない。

音楽であり、映画でありその中に内包されるグラフをいかに広げ、タッチポイントを作り出せるかが今後重要だと思っているのです。
音楽を聴かない人なんてごまんといる。

でも、その人は映画が好きかもしれない。旅行が好きかもしれない。NPOに興味があるかもしれない。

しかし、それは安直なタイアップやリンクを貼るということではない。複数のコミュニティに多重性をもたせることで、より様々な切口のつながりが生まれてくるし、互いを補完しあい、共有、共感の仕組みが発生する。

クワトログラフを架け橋として、ライトユーザもヘビーユーザも巻き込んで共有・共感を作り出す。その積み重ねが「ソーシャルレゾナンス:共鳴」へつながっていく。

そして、これは音楽に限った話ではなく、企業のマーケティングにも応用できたらいいなあと思っています。

まとまりのない内容になってしまいましたが、こんなことをつらつらと考えています。

さて、今週ソニマニ、サマソニ行ってきます!


こちらの記事はTMHブログポータルの方にも転載いただいております。このブログは個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。