『エクスペリエンス:体験』をソーシャルで循環させる

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11月に圧倒的なライブパフォーマンスで人気を誇るアメリカ・ニューオリンズのバンドMutemathがジャパンツアーを行った。

僕もSHIBUYA AXへ見に行ったけれど、それはそれは見事なライブだった。演奏力、構成、パフォーマンスどれもとっても一級品だったように思う。もっともっと日本で人気が出ればいいのになあと心から望んでいる。

そして、ライブ終了後出口でチラシをもらった。
『ニコニコ生放送にMutemath登場』同時にwebでも情報を公開。

さて、今日は「熱量を落とさずに引く導線」について考えてみたい。

リアルからソーシャルへ流れる導線

ライブ終了後にもらったチラシを手にしながら、多くの人がニコニコ生放送ついて会話をしていた。

「ヤバイ。ちょー見たい」
「仕事の合間にこっそり見るしかない」
「見れない。泣きたい」

ライブという身体性を伴うリアルでしか体験できない経験は「共鳴」を引き起こし、強い熱度を生成する。とあるアーティストのライブに行ったあと、しばらくそのアーティストの楽曲を聴いたり、ライブのセットリストをプレイリストで作った経験はないだろうか。

それはそのたった1回のリアルという「共鳴」という場を追体験したいからに他ならない。もう一度。もう一度。

そういった意味で、ライブ終了後にニコニコ生放送の告知を行うことは非常によかったと思う。ある括られた限定的な空間から、「熱量を落とさずに引く導線」をソーシャルへ作り出す。

ソーシャルで生まれる熱度

最初に言っておくと、僕はMutemathのニコニコ生放送は見ることができなかった。なので、実際と異なることがあるかもしれない。

ニコニコ生放送は約2時間の放送で、前半部分はMutemathのミュージックビデオを流し、後半はライブやトークショーという構成だったようだ。

Mutemathといえば、独自性とクオリティの高いミュージックビデオを制作している。
ニコニコ生放送を見ていた友人によるとミュージックビデオだけでも相当盛り上がったようだ。
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ここで考えたいのは、なぜustreamではなかったのかということ。

これは仮説なので真相はどうかわからないが、個人的にはニコニコ生放送はコアファンやミドルファン向けのTribe形成に向いている。

それは画面にコメントが挿入できることで、ファンの熱度や盛り上がりを可視化することにも相性がいい。しかし、自分のソーシャルグラフやライトファン、潜在層というエリアにおいては、あまり効果的ではない。

一方、ustreamはソーシャルストリームの特性も加味すると、コアファンはもちろんだが、ライト層や潜在層を巻き込む力が強い。
もちろんニコニコ動画にもソーシャルストリーム(twitter)は実装されているが、コメントの内容や傾向からすると外向けと言うよりは内向けの印象が強い。会員数も2000万以上、プレミアム会員も約130万と非常に強力なサービスだ。ニコニコ動画については違う機会に考察したい。

今回、Mutemathがライブ後に後夜祭と銘打ったことも踏まえると、ライトファンや潜在層というよりも、Mutemathのライブに行った人や行きたくても行けなかった人に向けたものであったのではないか。

MutemathというTribeの熱量が下がらないうちに、ニコニコ生放送という空間を活用し、熱度を維持する、もしくは熱度を再活性化させる仕組みを考えたような気もしている。

ミュージックビデオやライブ中に画面を占拠する圧倒的なコメントはファン同士のキズナを共有し、共感し、Tribeが形成され、ひとつになる。

それがただの「レゾナンス:共鳴」で終わることなく、「共有」「共感」のうねりを生み出し、ソーシャルへ循環される。それが「レゾナンス:共鳴」から「ソーシャルレゾナンス」と変異する大きな要因であり、可能性のひとつだと思う。

ライブや物販、ファンクラブをひとつの収益源、つまり『場のビジネス』に移行していくことは間違いないと思うのだけど、そこで重要な分断された『場のビジネス』では意味がないということだ。その瞬間、その場でしか体験できない「レゾナンス:共鳴」をいかにソーシャルを通して、【共有】【共感】のサイクルにするか。だからこそ、「ソーシャルレゾナンス:共鳴」となる。

今回であれば、適切な動画配信ツールと特性、前後のコンテキストを設計して、リアルもソーシャルも最適化させることが重要だ。

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「熱量を落とさずに引く導線」を最大化させる

残念なことは、その空間でTribeが形成され、熱度を爆発させてもその放送やライブが終わってしまったら、自然消滅してしまう点だ。

リアルであれ、ソーシャルという空間であれ、そこに集った人々は自分と同じようにMutemathのファンであるはずだ。

それをつなぎ合わせることができるのもソーシャルメディアの素晴らしいところだ。
ひとつのつながりのリングが連なっていくことで、よりMutemathへのロイヤリティは高くなる。Mutemathが自分にとって特別なバンドになる。

その「熱量を落とさずに引く導線」を最大化させるひとつは集ったファンをいかにつなぎ合わせるかということだ。

もうひとつは、やはり何かしらの購入への導線も作り出すこと。
熱度を維持する、もしくは熱度を再活性化している状態だからこそ、作り出せる空気がある。その「いまの感情」をどれだけ最大活用できるかということ。

例えば、レッチリが今回のツアーから、各公演のライヴ全編を専用サイトで配信している。その特別な体験を瞬間冷凍して、ユーザに届ける。値段は、1公演あたりMP3が9.95ドル、FLAC形式が12.95ドル、ALAC形式が12.95ドル。各曲のさわりを試聴することもできる。

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大概ライブDVDなどの販売は半年後あたりは通常だと思うのだけど、
それだとよっぽど熱度の高い状態を維持しているユーザ、もしくは生粋のファンでないと買わなくなってしまうのではないか。

僕自身もそうやってライブに行ったのに、その瞬間を切り取ったパッケージを買わなかったケースは山ほどある。それは大きな機会損失だ。

そういった意味で、このレッチリの試み非常に有効だと思う。例えば、2011年11月19日のBirmingham, UKのライブがもう販売されている。「熱量を落とさずに引く導線」はリアル、web、ソーシャルを活用することで大きなチャンスがあると思っている。

常々、このブログで書いている「共有」→「共感」→「共鳴」の円環を生み出すことだ。「共有」→「共感」→「共鳴」へ。そして、また回りまわって「共有」→「共感」→「共鳴」へ。

『エクスペリエンス:体験』をソーシャルで循環させる方法はまだまだ可能性があるように思います。


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また、その関係で抽選に漏れてしまった方も多数もいると伺いました。心よりお詫び申し上げます。どこでも馳せ参じますので、お気軽にご連絡くださいませ。ありがとうございました!


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