「ソーシャルメディアに取り組むか、取り組まないか」というフェーズから
いかに「ソーシャルメディアと向き合っていくか」というフェーズに時代は変わりつつある。専門部署の開設や社内運用の仕組み化も進んできた。
twitterやfacebook、Youtubeのアカウント開設ラッシュから徐々にそれぞれのソーシャルメディアでの役割や目的、ユーザとコミュニケーションを取るかが次の課題となっている。
特に音楽業界でいえば、企業レベル、アーティストレベルでソーシャルメディアへの取り組みは見られるが、その多くが実際は「ソーシャルメディアをやっている」だけにすぎない。
今回はファンの「熱度」を熟成することで、ソーシャルメディアマーケティングを発動するタイミングをコントロールすることについて考えてみたい。
クワトログラフでandropを伝える
ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル「unBORDE」に所属するandropはいま、至る所で注目を浴びているバンドだ。
andropは現在、ワンマンライブツアー中でほとんどの会場はソールドアウトの状態になっている。また、マスメディアでの露出も少なく(ゼロではない)決して世の中の誰もが知っている「世の中ゴト化」の状態にはなっていない。
しかし、andropはもともとの音楽性の素晴らしさがベースにありながら様々な方法でandropを伝えている。
例えば、印象的なロゴがある。タワレコなどに足を運べばわかるが、1stフルアルバム「relight」発売前などはタワレコの購入導線上やフロア導線上にandropのロゴを配置し、認知経路を確保していた。
僕自身も最初にandropを認知したのは、このタワレコでのロゴだった。
その後、ミュージックビデオ「Bright Siren」がソーシャルメディア上で話題を生み出し、その後のミュージックビデオ「Bell」でも話題となった。そのとき、僕はロゴとミュージックビデオとandropが線になる。クワトログラフの「音楽以外から音楽を知る」リレーショングラフのパターンだ。もちろん、ソーシャルグラフやインタレストグラフも自然発生的に起きている。
また、andropの発売するCDジャケットのデザインも非常に秀逸で、それ自体がニュースになるなど、PRをうまく活用していたように思う。
特にミュージックビデオはクリエイティブユニット「PARTY」が手がけたこともあり広告、IT、ソーシャルメディア業界には広く伝わった。「PARTY」からandropを知ったユーザもこの業界には多いように思う。
今の時点でandrop自体は何もソーシャルメディアアカウントを運営していない。
あくまで音楽性やコンテンツ自体がソーシャルメディアで広まり、リアルも含めた全体戦略からandropを訴求できているように思う。もちろん、中にはバンドの外面上の部分もあるとは思うが。
ソーシャルメディアを活用することは、何もアカウントを開設するだけではない。
素晴らしい音楽、ハイクオリティな映像、印象的なロゴなどマスメディアを使わずとも多彩な方法でゆっくりと認知経路と興味喚起を育んできたといえるだろう。
ファンの「熱度」を自然発生させ、溢れさせる
現在、andropはYoutubeにのみチャンネルが開設され、数多くの映像を見ることができる。
andropはメンバーの顔をあまり表に出すことはない。Youtubeで視聴できるものはミュージックビデオやTV SPOT(ここではマスメディアを一部活用している)。その中でミュージックビデオのメイキング、ライブ映像やライブのダイジェスト映像もアップロードしており、ここで初めてライトファン及びミドルファンはandropの素顔を確認できる。
しかし、着実にファンを醸成してきたandropは自身がソーシャルメディアを運用していなくても、ファンが自発的に熱意を持って、ソーシャルメディア上にandropに関わる発言をしている。
試しに僕が所属するトライバルメディアハウスのクチコミ分析エンジン「Boom Research」でandropのクチコミを見てみよう。対象範囲は2012年1月1日から02月29日までで、ブログ、2ちゃんねる、掲示板としている。twitterは含まれていない
例えば、同レーベルのきゃりーぱみゅぱみゅはマスメディアやPRも含め、すでに「世の中ゴト化」へと遷移し数多くのクチコミがあることは想定できる。(本ブログでは掲載しない)一方、まだ「世の中ゴト化」までは至ってないandropであるが、実はかなりの数のファンがクチコミを行なっていることがわかる。
きゃりーぱみゅぱみゅもandropもかぶることがない名前というのも非常に重要な要素だが注目すべきはandropのファンに関して言うと「熱量」が溢れ出ている状況だということだ。特にtwitterも加味するとその数は多い。
ソーシャルメディアを運用することはそこにファンが集う。集い、うまく運用すればコミュニケーションが活性化され、よりアーティストとユーザ、ユーザとユーザのエンゲージメントは高まっていく。仮にもしandropのfacebookページなりtwitterがあったならそれなりにファン数を獲得することはできるだろう。
しかし、現在andropはその熱量を放出する場がないだけに、コアファンやエヴァンジェリストたちがありたっけの思いを込めてソーシャルメディア上で言葉を何度も吐き出す。そして、それはただの情報ではなく、熱量を伴っていることから、自身のandropを知らないソーシャルグラフにゆっくりと浸透する。
ちなみにmixiコミュニティは存在し、約15000人以上が参加している。ここはすでにandropのファンのみが存在しているので、andropを広めるよりもコアファンをユーザ同士で形成していくことやコアファンを見つけ出すほうに向いている。しかし、mixiの状況を加味するとおそらくandropのメインターゲット層はここに生息しているように感じるが、ここだけ重要視することは機会損失だ。
キャンペーンのように一回つぶやいたら終わりなのではなく、ユーザが「自分ゴト化」されているからこそ、そして「仲間ゴト化」へ広がり始めている。何度も何度もandropへの思いを吐露する。それは嘘偽りない声だ。もちろん、仮にファンを集わせる場所があったとしても、その熱量を秘めた声はソーシャルメディアで同時多発的に生まれているはずだ。しかし、もしも統一された場所があればそこで済んでしまうかもしれない。その場所がないからこそファンは思いを伝え、andropの良さを伝え、仲間を見つけ、つなげようとする、つながりたいと思う。
ユーザはandropの音楽に触れ、共感し、共有し、楽しんでいく中で、、ひとりでも多くの人に知ってほしい、共有したい、という自然発生的かつ自発的にソーシャルメディアを活用し、自由に楽しみながら広めているピュアな現状がある。androp自身が何かコントロールしていることはもちろん、ない。
ソーシャルメディアは今後確実に取り組む方向へ進むとしても、その発動のタイミングはコントロールすることができる。ソーシャルメディアではクチコミをコントロールすることはできない。しかし、意図的に熱量を高めて、炙って、ソーシャルメディアマーケティングを発動するタイミングはコントロールすることができる。
その際、今後twitterアカウントやfacebookページを開設することが正しいのかは考えなくてはならない。それが正解の場合も大いにあるだろう。いかにしてソーシャルメディアで潜在層、ライトファンをミドルファンへ醸成していくか。そして、どのように100Tribes(ワンハンドレッドトライブス)をつくりだしていくか。そして、「世の中ゴト化」へスケールアップさせるためには、マスメディアやPRも欠かせない。
ソーシャルメディアの前に【共有】される環境を作り出す
andropはソーシャルメディアを自身では運用していないが、andropの音楽や映像、歌詞、情報をすぐさま取得できる環境を構築している。
ミュージックビデオはもちろんのこと、andropのオフィシャルサイトでは楽曲、映像も見ることができる。また、スマートフォンサイトにも対応しており、簡単にandropを知る、聴く、見る、共有する仕組みがある。ソーシャルターミナルほどではないが、その下地はすでにできている。まだ一歩通行の部分はあるが、今後変わっていくだろう。
中でもスマートフォンサイトで歌詞をコピーできることはかなりの驚きだ。
本来コピーできないものだが、意図は不明だがこのように歌詞すらも共有できるようにすることで、andropの音楽性がコアファンによって伝搬されていく。ここにもっとソーシャルボタンなどがあればよりいいだろう。
企業やアーティストがソーシャルメディアに参加しようとしまいと、ユーザは自由に声をあげている。それを活用することも重要だが、それよりもまずandropを『共有』させる仕組みを作るほうが大切だ。webサイト然り、スマートフォン然り、コンテンツ然り、ユーザのかゆいところに手が届くようになると、その後ソーシャルメディアマーケティングを実施した際に広がりは幅を生み出す。闇雲にソーシャルメディアマーケティングをおこなってもそれは灯台下暗しだ。
生身の人間しかいないからこそのソーシャルメディア
本物は熱量を自然と生み出す。その熱量をどう放出させるか、もしくはどう醸成させるかがこれからのポイントになる。ソーシャルメディアは所詮ツールである。そこに集う生身の人間の感情があって初めて成立するものだ。
とりあえずソーシャルメディアを開設してからチューニングもいいが、いつ、どの、タイミングで、ソーシャルメディアマーケティングを活用するかはアーティストにとって重要な問題だ。そのためには継続的なクチコミ分析は欠かせない。傾聴戦略はソーシャルメディアマーケティングを発動するときに必ず価値を生む。それは目視や精度の低いものではなく、きちんとしたものを導入することでいざというときの重要な判断材料になる。
レディ・ガガのように100Tribes(ワンハンドレッドトライブス)の発展形であるファン専用のソーシャルネットワーク「Littlemonsters」などのようなものも今後次々と生まれてくるだろう。
安直にtwitter,mixi,facebookではなく、その意図と役割と住み分けとタイミングを定めることが大切だ。今回取り上げたandropが今後どのようにソーシャルメディアマーケティングに取り組むかはわからないが、興味深く注目していきたい。
実施方法の正解はない。facebookページやソーシャルメディアにすでにページを開設し、運用しているアーティストやレーベル、企業もある。戦略なしのソーシャルメディアマーケティングはよくないが、方法論はいくらでもある。今回の例がどのアーティストにも当てはまるわけではない。10組のアーティストがいれば、10通りのやり方が存在する。
ファンの「熱度」を熟成させることで、のちのちソーシャルメディアマーケティングを発動したときに、ファンの「熱量」はより一層加速する可能性を含んでいる。そのためには、いかに「クチコミしたくなるような共感を纏うコンテンツ」を生み出せるかが重要になる 。
ソーシャルメディアは情報をコントロールできない。 しかし、ソーシャルメディアマーケティングを発動するタイミングはコントロールできる。
だからこそ、行き当たりばったりではなく、全体戦略を踏まえ中長期的な計画の中でソーシャルメディアマーケティングを実施するタイミングを考えて様々な施策と連動していくことが必要だ。
素晴らしい音楽をもっともっと広げるために、届くように。ソーシャルメディアはそこに価値を出せる。
andropを聴いたことがない方は是非、聴いてみてください。素晴らしい音楽を奏でるバンドです。僕自身も大好きです。
こちらの記事はTMHブログポータルの方にも転載いただいております。このブログは個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。