ソーシャルメディア時代の音楽コミュニティの未来

音楽をマネタイズしていく上で、コミュニティの存在はひとつのカギを握る。
今までのようにCDが売れることは悲しいけど、難しい。

ソーシャルメディアで音楽ビジネスに光を灯すには、コアファン同士をつなげることと
コアファンから潜在層や顕在層、ライトファン層へ階層を引き上げ、ファンのレイヤーをあげることだ。

今回はソーシャルメディア時代の音楽コミュニティの未来を考察する。

コアファン同士をつなげるコミュニティ「タコツボ」

音楽に対してCDであれ、ライブであれ、ファンクラブであれお金を支払うのは
基本コアファンだ。アーティストに対し、楽曲に対し、ライブ(フェス)に
自分ゴト化されたユーザはそこに価値を見出す。

ソーシャルメディア時代の音楽コミュニティを考える上で、
重要なのは「タコツボ」と「トライブ」の違いを分けて考えることだ。

これからの時代においてコミュニティはひとつの未来を描く。
そのコミュニティはあらゆる言葉で言い表される。

ここでまずその中でも最も使用される「タコツボ」について定義したい。
まず大前提としてユーザは囲い込まれたいなんて思っていない。
ソーシャルメディアは囲い込む場所ではない。

「タコツボ」とは一言で言えば、限定された空間での膨大な熱量が伴う一見さんお断りの場所だ。分かりやすい例はファンクラブだろう。

あるアーティストに対して圧倒的な熱度でコミュニケーションが交わされる。
自分にとって代替のきかない特別な存在として位置づけられている。

ここにライトファンやミドルファンは存在しなく、コアファンしか存在しない。
だからこそ、膨大なコミュニケーションや情報が日々やり取りされ、
彼らが基本的にお金を落としてくれる。

このコアファン同士をつなげるコミュニティこそが「タコツボ」である。
ソーシャルメディア時代の音楽ビジネスを考える上で、この「タコツボ」をどれだけ構築できるかが肝になる。しかし、注意が必要なのは「タコツボ」だからといってユーザはひとつの「タコツボ」だけに属しているわけではない。

その「タコツボ」の関与度の高低はあるにせよ、あらゆる「タコツボ」に属している。そして、なにより「タコツボ」といえども囲い込まれたいなんて思っていないことだ。

ライトファン、ミドルファンをコアファンへ引き上げる「トライブ」

このブログでもソーシャルメディア時代の重要な要素として100人のコアファンを作る
「100Tribes(ワンハンドレッドトライブス)を述べているが、いかにトライブを構築できることが重要な要素だと述べてきた。

Tribeとは「年代や性別を超え、共通の趣味や興味、価値観で形成される部族」という意味で、トライバルマーケティングとは「Tribe(部族)ごとに最適化されたマーケティングを実施すること」を指す。

まず100人のエヴァンジェリストを作り出す。ライトファンではないコアなファンだ。
エヴァンジェリストが自分たちを応援してくれる、友人を誘ってくれる。
そういったTribe(部族)を100人作り出すことだ。

「トライブ」はその名の通り、「部族」を指すので一概に音楽だけでなくてもいい。
そこから派生するファッションやカルチャーも内包した広がりのある概念だ。それに対して「タコツボ」というのは広がりの幅が狭い。

ソーシャルメディアというツールをうまく活用するためには、トライブの形成が不可欠だ。
しかし、もっと重要なのは「タコツボ」と「トライブ」を使い分けることだ。

「トライブ」は「タコツボ」のように一見さんお断りなのではなく、誰でもが参加でき、コアファンがライトファンの意識変容や態度変容を促すことだ。

ソーシャルメディアの用途をどう使い分けるか

ソーシャルメディア時代の音楽コミュニティを形成する上で、この「タコツボ」と「トライブ」を混在させ、同一化させるとうまくいかない。

イメージとしては、「トライブ」の中に「タコツボ」が存在する。
「トライブ」でソーシャルメディアを活用することは、情報に加えてエヴァンジェリストが自分の感情を付加して、ライトファンをソーシャルメディアを通して引き上げることだ。

一方、「タコツボ」はコアファン同士のコミュニケーションなので、情報に加えて自分の感情を付加することは当然のこと、情報自体よりも情報が生み出される付随要素を拡張させることのできる人が集う場所だ。

そう仮定した場合、ソーシャルメディアを活用する用途が変わる。

「トライブ」はソーシャルメディアを用いていかにコンテンツとソーシャルグラフを中心軸にして、ライトファンを巻き込ませるかであり、誰もが興味のレイヤーが上がれば参加できるオープンなコミュニティになる。ヒト+コンテンツのコミュニケーションだ。

「タコツボ」はソーシャルメディアを用いていかにソーシャルグラフとは別のコアファン同士の感情と経験、体験をつながりあえる機能を用いるかといったクローズドなコミュニティになる。インタレストグラフのヒト+ヒトのコミュニケーションだ。

例えば、「トライブ」として当てはまるのはmixiコミュニティ(例外はある)であり、facebookページであり、USTREAMのソーシャルストリーム(twitter)だ。

逆に「タコツボ」として当てはまるのは、ファンクラブであり、会員制サイトであり、ユーザ主導形成のアンオフィシャルなファンクラブになる。ここではソーシャルメディアの特徴のひとつである拡散性は必要ない。それよりもコアファン同士でいかに熱量を高めあえるかが重要だ。また、ソーシャルメディア時代のファンクラブのあり方も当然変化していく。その部分はまた違う機会に考察する。

これからの時代は、これだけ情報が溢れ、音楽に時間を割くことが圧倒的に少なくなった現在、いかに音楽に対する時間をいただくか。これは至上命題だと言っていい。

その中でコアファンに焦点を当て、ビジネスモデルを考えるのは至極まっとうなことだが、その中でも実は「タコツボ」と「トライブ」という2種類あることを忘れてはならない。

コアファン同士だけをつなげる「タコツボ」だけでは母数の拡大は見込みづらい。
そのために、コアファンがエヴァンジェリストとなり潜在層や顕在層といったライトファンの階層を引き上げる「トライブ」が必要になる。

「タコツボ」と「トライブ」のふたつの車輪が回りだすことで、ソーシャルメディア時代の音楽コミュニティは輝きを生み出す。同時に「タコツボ」と「トライブ」を有機的に組み合わせる、連動させることがより一層双方の価値を高める。

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オープンな「トライブ」とクローズドな「タコツボ」それぞれを俯瞰して考えて、どこにコンテクスト設計を行うかが今後重要になる。どことどこを連結させるか、何を共有できるようにするのか。ソーシャルメディアの仕組みと仕掛けをどうつなげるか。

そういった意味ではレディ・ガガの「Littlemonsters」は「トライブ」と「タコツボ」のあいだを担うセミクローズドなコミュニティといえる。このような形態も今後増加していくだろうし、オープンとクローズドをつなぐ重要な役割を果たしていくだろう。

音楽コミュニティを手に入れないとビジネスをしていくことは今後難しい。
そのためにソーシャルメディアの用途をしっかりと踏まえることが、ひとつの可能性になるのではないかと思っている。

「タコツボ」と「トライブ」はそれぞれ独立しながらもつながり合っている。向かい合っている。手を取り合っている。そんな関係性なのだと思う。

さて、春が近づいてきてフェスも始まりはじめましたね。
今年はみなさん、どこのフェスへ行かれますか?


こちらの記事はTMHブログポータルの方にも転載いただいております。このブログは個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。