現在、誰でもが簡単に情報やコンテンツを発信できるようになり、モノづくりのハードルは圧倒的に下がった。
映像、音楽、言葉、写真、ダンスetc。
何かを表現するという行為は誰でも平等に可能になった。1億総クリエイターと言ってもいい。
その中で今回はソーシャルメディアを使いながらアーティストプロモーションを行なっている事例をもとにソーシャルメディア発から生まれるアーティストの可能性について考えてみたい。
国籍・経歴一切不明シンガー【GILLE】
最近、Yahooニュースにも取り上げられていたアーティストがいる。
Youtubeでは240万回の再生を記録したGILLEというアーティストはこの度、ユニバーサルミュージックと契約したと報じている。
彼女は「Let my music be heard to the world」(私の音楽よ、世界に届け!)」というメッセージとともにYoutubeに映像を公開している。
映像の中身は、AKB48の「フライングゲット」の英語カバーだったり、ヒルクライムの「春夏秋冬」の英語カバー、アデルなどを歌い上げている。彼女のミステリアス性と圧倒的な歌唱力が相まってweb上で話題になっている。
彼女が素晴らしい点は以下4点にある。
- ①音楽をまず「聴かせる」ということに重きを置いている点
- ②ユーザが興味を持ちたがるミステリアス性(正体を明かしたくなる/語りたくなる)
- ③あらゆる方面から興味を持ってもらえるような多彩なカバー(AKB48、ヒルクライム、アデル、原田真二)
- ④抜群の歌唱力(歌唱力、英語力)
若手シンガーソングライター集団「Goose house」
Goose houseは男女9名で構成される音楽集団だ。
もともとはソニーウォークマンのプロジェクト「PlayYou.House」で生まれたメンバーたちがシェアハウスをしながら、音楽を奏でている集団だ。
Goose houseは自身のサイトをソーシャルターミナル化し、アーティストサイトをハブ化し各ソーシャルメディアへ自由に行けるように設計されている。合わせて、このサイト自体でもたくさんのコンテンツがあり、楽しめるようにオンラインストアなども開設している。
ソーシャルメディアにおけるファン数も多く、facebookで約11000人、twitterで約16000人フォロワー、Youtubeでは約1200万再生、Ustreamでも最大瞬間視聴2000人を記録している。(4月4日現在)
彼らの素晴らしい点は以下の4点にある。
- ①あらゆるソーシャルメディアを駆使して音楽を聴かせることに注力している(facebook/twitter/Youtube/Ustream)
- ②シンガーソングライターがみんなでシェアハウスに住んでいるという話題性
- ③誰もが知っている曲をカバーすることで、興味喚起を促進
- ④Goose house内メンバーの組み合わせや連動と個々人の優れた歌唱力
謎の多国籍ロックバンド、The_AIU
東京を拠点とする無国籍でドラムレスの3ピース・バンドでデモ音源「Loser(ver.0)」のフリーダウンロードを名刺代わりに配信し、話題となった。
Ustreamも巧みに使い、海外女性シンガーの存在やバンドのミステリアス性を兼ね備えながら活動している。
音源を無料で解放した中でもたくさん解放するのではなく、勝負曲でというところが興味深い。例えば、 The _AIUではないが、myspcaceに無作為に数曲公開するよりも、絞りに絞った勝負曲をどう聴いてもらえるかを設計したほうがいい場合がある。その中で、
The _AIU はその戦略として素晴らしかったと思う。
彼らの素晴らしい点は以下3点にある。
- ①勝負曲だけを解放させた(Loser/CPU)
- ②深堀したくなるバンドのミステリアス性(外国女性シンガー/大型フェスを経験した某ダンスロック・バンドを脱退したばかりの大型ギタリスト/ノイズ&トリートメント担当の国籍不明の謎の美少年)
- ③優れた演奏技術と歌唱力
ソーシャルメディアを活用する上での3つの共通項
これまでGILLE、Goose house、The_AIUを例にとって、ソーシャルメディア発のアーティストがどう生まれてきていて、何が素晴らしいのかを考えてみた。すると、ある共通点が見えてくる。
それは各アーティストの箇所でまとめた通りなのだけど、改めて記載してみる。
- ①音楽(映像)を解放することが、音楽(映像)を引き寄せる(共有)
- ②クチコミコミしたくなる要素を兼ね備えている(共感)
- ③演奏力や歌唱力などの優れた技術(共鳴)
当たり前じゃないかと思われるかもしれないが、その通りでこれはあくまでベースである。
逆に言うと上記①~③はすべてつながっており、どれがかけても成立しない。
①(共有)なくして、②(共感)はないし、③(共鳴)なくして、①は広がらない。
②のクチコミしたくなる要素も案に「新曲リリース!」などといった内容ではある一定の層までにしか届かない。クチコミしたくなる要素とはコアファンはもちろんのこと、そこからいかにしてライトファン、顕在層、潜在層に届かすことができるかだ。
確かに②の部分でのミステリアス性や掘りたくなるような感覚は以前より実践されていた手法ではある。しかし、ソーシャルメディアによってより一層そこの設計が大切になってきている。
そして、いかに【共有】⇒【共感】⇒【共鳴】のサイクルを回すがやはり重要になってくる。それはソーシャルメディアがコミュニケーションインフラとして機能しているからこそ可能になる。①だけでも難しいし、②だけでも難しい。これを土台とした上で、どうコミュニケーションを設計するかが大事だ。
特に大きく爆発させるためには、「世の中ゴト」に変貌させる必要がある。
「自分ゴト」⇒「仲間ゴト」⇒「世の中ゴト」への広がりをどう練っていくか。
また、自身の音楽ターゲットに対していかに興味喚起を抱いてもらうにあたって
クワトログラフのミュージックグラフを活用するかも合わせて重要だ。
GILLEやGoose houseのカバー曲を見ていても、カバー曲を見ているとそれぞれのメインターゲット層が見えてくる。いきなりオリジナル曲を聴いてもらうよりも、自身の音楽ターゲットが「好きな曲」をカバーすることで、興味喚起の需要をあげることができる。そして、そのカバー曲も多面的に行うことが重要だ。カバーを挟んだほうがターゲットが「自分ゴト」しやすいはずだし、よりクチコミしたくなる要素を兼ねることができる。
世界共通のコンテンツ解放
音楽は聴かれて初めて光を放つ。ここがまず最初のゴールである。
ここからいかにマネタイズという点で考えると、例えばGoose houseはソーシャルメディア上で活動するアーティストならばダウンロード販売の売上がCD販売を上回るのかと思いきや、実はCD販売の方が多いとのこと。そして、USTREAMやYouTubeの視聴者数とライブ動員数は、比例して増加しているデータが出ているとインタビューで語っている。
上記アーティストで述べた想定ターゲットが興味を持つ層のカバー曲から知ってもらう方法もまたひとつだが、誰でも知っているアーティストでも面白い取り組みをしている。
Perfumeは日本では誰でも知っているアーティストであり、アジアでも人気だが、まだまだワールドワイドではまだ認知されるにいたっていない。
Perfumeのグローバルサイトでは現在、非常に面白いコンテンツを解放している。それはモーションキャプチャデータを解放し、ユーザに自由にビデオを作ってもらうのだ。
ユーザが制作する数は決して多くはないかもしれないが、そのぶん優れたコンテンツが生まれる可能性は高い。そして、ユーザから広げるPerfumeが生まれる。アーティストをユーザに委ねる。共に創り上げていく。まだまだ再生回数も制作本数も少ないが、これが世界中にうまく広がればいいなあと個人的に思っている。
このように、音楽を囲い込む時代から音楽を解放する時代に向かっている中で、解放するコンテンツ自体も様々な方法がある。
そして、ソーシャルメディアを活用する上で共通する3つのことをベースにインディーズ、新人アーティスト、誰でも知っているアーティストそれぞれコミュニケーション設計していくことが、今後重要になってくると思っている。
ただし、ソーシャルメディアからモノが売れることは極めて難しい。ソーシャルメディアは売れる(CD、配信、ライブチケット)に直結するものではないので、再生回数が何万回いこうが、どんなにツイートされようが、売上とはマーケティングの総体なので、コミュニケーションだけでモノが売れるわけではない。
しかし、まだまだ日本でソーシャルメディアから生まれた誰でも知っているアーティストは少ない。というかいないに等しい。あえて言うなら初音ミクだろう。そういった中で今後日本でも生まれてきてくれることをいち音楽ファンとして願っている。そして、僕自身も仕事としてチャレンジしたいなあと思っている。
こちらの記事はTMHブログポータルの方にも転載いただいております。このブログは個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。