音楽サブスクリプションサービスを発展させる3つのコンテクストプレイリストとは?

ついにApple Musicがスタートしました。AWA、LINE MUSIC、KKBOX、うたパス、レコチョクBestと役者は揃いつつある中で、さらにYouTube Music KeyやSpotifyが控えている状況となり、いよいよ音楽サブスクリプションサービスが仲間ゴト、もしくは業界ゴトを超えて世の中ゴト化へと変異するタイミングが来たと言えるかもしれません。

しかしながら、音楽オタクか音楽を仕事にしている人以外は、多くのユーザーが使用する音楽サブスクリプションサービスは基本「ひとつ」です。よって、当たり前ですが、いかにして「選ばれる」かがどのサービスもチカラを注ぐポイントになります。

その際にユーザーに選ばれるポイントは「プロダクトクオリティ」と「マーケティングクオリティ」の2点です。「プロダクトクオリティ」の中には「楽曲数」「UI/UX」「価格」「機能」が含まれ、「マーケティングクオリティ」にはまさにその名のとおりマーケティングコミュニケーションの手法になります。

今回はその中でも「プロダクトクオリティ」の中に内包される「機能」の「プレイリスト」に焦点を当てて考えてみたいと思います。

◆注目されるプレイリストの未来はコンテクストプレイリストにある

どの音楽サブスクリプションサービスにも共通するものがあります。それが「プレイリスト」です。サービス側がキュレーションするものもあれば、ユーザーが作れるプレイリストもあり、音楽サブスクリプションサービスの魅力となりうる大きな機能のひとつです。

ですが、単にプレイリストを多様に用意しても効果=ユーザー満足度の向上=サービス拡大にはつながりません。なぜなら、そのプレイリストを聴く理由を創出できなければ聴くに値しないからです

そこで、プレイリストを作成する側が意識しなければいけないのが、「コンテクストプレイリスト」です。

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「コンテクストプレイリスト」とは、すなわち「文脈を伴ったプレイリスト」です。では、具体的にはどのようなものを「コンテクストプレイリスト」と言うのでしょうか。

実はプレイリストを分解すると、ふたつの分岐点があります。それが「Who文脈」と「What文脈」です。誰が作ったプレイリストなのか、何のプレイリストなのか。これが「コンテクストプレイリスト」を生み出す上で起こる違いのひとつなのです。

◆Who文脈のコンテクストプレイリストを分解する

例えば、小室哲哉さんが作ったプレイリストなら、それは紛れも無く「Who文脈」の「コンテクストプレイリスト」となります。小室哲哉さんが選んだ音楽だから聴いてみたいという文脈が創出されます。アーティストが作るプレイリストがいちばんわかりやすいと思います。

もうひとつは友人知人が作ったプレイリストです。友人知人たちもプレイリストのタイトルはつけていても、つまるところは友人知人が作ったプレイリストだから聴いてみようというものです。しかし、音楽は趣味趣向のグラフで形成されるのでソーシャルグラフよりは、インタレストグラフが色濃い傾向があります。

もちろん、ソーシャルグラフとインタレストグラフが結合されているような人間関係であれば機能します。裏を返せば、ソーシャルグラフであっても興味がなければいくら友人知人が作ったプレイリストでも聴かない可能性も充分にあることになります。

また、NMEやPITCHFORKなどの権威あるメディアのキュレーションも広義の意味では「Who文脈」に属するものです。

◆What文脈のプレイリストを分解する

一方、「What文脈」はその名のとおり、何をが重要であって「誰が」は関係ありません。TOP100やジャンル別、シチュエーション別のプレイリスト、夏フェスなどコトを軸にプレイリストを作成するパターンです。「What文脈」は何が面白い、興味深いのかが重要です。だからこそ、どの音楽サブスクリプションサービスもベーシックなアクティビティのプレイリストから、ニッチなプレイリストまで用意して、ユーザーに新しい音楽体験を提供してくれています。

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これまで音楽サブスクリプションサービスの中のプレイリストの中でブレイクした、例えばLordeなどはショーン・パーカーのプレイリストからの発掘でした。これはまさにあのショーン・パーカーが推しているというWho文脈があってこそのブレイクでした。おそらくそれは今後も大いに想定され、ネクストブレイクのアーティストが出てくると思っています。

対して、「What文脈」のプレイリストは個人的には日本人ととてもマッチしていると思っています。

前述したようにユーザーが作るプレイリストは基本的には「Who文脈」で構成されていて、ソーシャルグラフをベースです。ですが、「Who文脈」と「What文脈」が接続されて、音楽サブスクリプションサービスの新しい楽しみ方を提供できる可能性があります。それこそが「ソーシャル文脈」です。

◆ソーシャル文脈が付与されると新しいプレイリストが生まれる?

ソーシャル文脈とは、そのプレイリスト自体が話題になる/ニュースになる/Talk-ableになるものを指しています。それは単独のプレイリストかもしれませんし、複数のプレイリスト集合群かもしれません。

純粋にいい音楽をという思いのもとのプレイリストは基礎の基礎の大事な部分なので論じるまでもありません。それを踏まえて、ユーザーがソーシャル文脈を携えて自由に文脈を生み出せるプレイリストはそのサービスがより発展される可能性を秘めています

例えば、Apple Musicのプレイリストの中には「夏だ!海へ行こう!」というプレイリストや「女子同士の旅」というプレイリストが存在します。ここに日本人の得意技とする与えられたルールの中で新しいアソビを生み出す”のが今まで以上に土壌を整えればサービス利用の未来は一歩抜きに出るかもしれません。”日本人の得意技とする与えられたルールの中で新しいアソビを生み出す”背景は、10代を中心に今までのムーブメントの歴史を紐解けば、それは明確です。

これをプレイリストでも解放することで(もちろん今もやっていますが)、音楽ファン以外などがプレイリストで「アソビ」始めると一気に加速するかもしれません。このアソビの「余白」を生み出せる空間を設計できるかがポイントかもしれません。

想像もしなかったプレイリストや、笑いすぎてお腹が痛いプレイリスト、究極のニッチだがたまらない人にはたまらないプレイリスト、利用用途が全く違うプレイリストなどポイントは音楽ファンじゃない人が作るプレイリストです。それが前述の音楽をしっかりと届ける「Who文脈」と「What文脈」に加えて「ソーシャル文脈」というアソビが加わったらプレイリストの未来は面白いものになると思っています。音楽ファンだけに利用されるサービスから音楽に関与度の低いユーザーまで巻き込むことができるかもしれません

ソーシャルというのは何もTwitter、facebookにシェアできることだけではありません。ソーシャルという空間の中で伝搬するコンテクストを用意する、場を与えることもソーシャルなのです。

また、まだどのサービスも「Who文脈」のプレイリストと「What文脈」のプレイリストがそれぞれの領域の中にとどまっており、相互に接続されている状態ではないので、UI的に「Who文脈」からの「What文脈」、「What文脈」からの「Who文脈」がつなげられるとよりよく使われるサービスになっていくのだと思います。

実際には「プロダクトクオリティ」の中には、プレイリストだけではなく、「価格」「楽曲数」「人気楽曲の含有率」「新譜提供時期」「オフライン再生」「対応デバイス」「独自機能」などユーザーがジャッジメントをする要素は多岐にわたります。また、「マーケティングクオリティ」も絶対に無視することはできません

「プロダクトクオリティ」と「マーケティングクオリティ」の両輪あってこその発展です。各サービスそれぞれに魅力的なところがあります。2015年を持って、もっと音楽を聴いてもらえるといいなと願ってやみません。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。