2019年を「音楽」と宣言したソフトバンク

2019年の新春。テレビCM、新聞広告、雑誌やWEB問わず多くのブランドが新しいクリエイティブで広告を展開する。

その中でも一際話題をさらったのはソフトバンクのテレビCMだろう。長年シリーズ化してきた白戸家ではなく、広瀬すず、エレファントカシマシの宮本浩次、田中圭、吉沢亮、清原果耶らが、新しいイメージキャラクターに就任し、描かれた内容は常識や制限からの解放を現すような内容となっている。しかし。このテレビCMの主役は音楽だった。

スペシャルサイトでは以下のような文章が掲載されている。

 

参考画像
ソフトバンクHPより https://www.softbank.jp/mobile/special/sing/

 

音楽はサービスのことなのか、料金プランのことなのかなど執筆時点ではまだ全貌は明らかとなっていないが、このテレビCMはシリーズとして続いていくという。第1弾では放牧されていたいきものがかりが復活という名の集牧されたあと、初の書き下ろし新曲『WE DO』を軸に展開されている。今後OTHER MUSICとしていくつかの枠が「Coming Soon」となっていることからも、これからもアーティストを変え展開していくことが予想される。そして、2019年はますます音楽ストリーミングサービスが加速していくだろう。

ここでポイントとなるのは、2点ある。ひとつ目はソフトバンクが大々的に音楽を軸にした広告展開を開始したこと。そして、ふたつ目はソフトバンクが視覚に加え「聴覚」に訴えかけるアプローチを開始したことだ。

ソフトバンクは広告展開においても常に話題性に富み、大胆な表現するトップブランドのひとつだ。そのソフトバンクがクリエイティブを一新し、まったくこれまでとは異なる広告を制作したことにソフトバンクの大きな覚悟を感じざるを得ない。その主役が音楽なのだ。例えば、テレビCM内でソフトバンクのロゴが音符へ変化するというある意味ブランドアイデンティティにもタッチすることはこれまでにもなかったことだ。

先に述べたとおり、音楽にまつわるサービスないし、料金プランなどが軸にあるために広告展開においても音楽がメインとなっているのだろうが、これまでの有名アーティストがテレビCM用に書き下ろし、多額のバジェットをかけて実施することはこれまでにもあった。しかし、今回はソフトバンクのようにブランドロゴにまで音楽が加わってくることは他社においても例がない。競合であるNTTドコモやKDDIも音楽を積極的に活用するブランドだが、少なくとも第一弾のテレビCMは音楽を主役に据えた壮大なティザーだ。

ソフトバンクのYouTubeチャンネルの概要には、以下のようなメッセージがある。

音楽とスマホで、僕たちはもっと自由になれる。 2019年のソフトバンクは「しばられるな」をテーマに、注目のアーティストと次々にコラボレーションし、「音楽」を主役にしたCMを続々展開していきます!

 

広瀬すずでも吉沢亮が主役でもない。いきものがかりでもない。「音楽そのもの」がソフトバンクの軸に据えられたと高らかに宣言された広告なのである。

そして、2点目が「聴覚」へフォーカスされた内容である点だ。ソフトバンクといえば、お父さん犬を始めとした白戸家が長年ブランドイメージを形作ってきた。その時々の旬なタレントを使うことはあっても軸は白戸家であり、お父さん犬である。(今回も少し出ているが)その結果、白い犬=ソフトバンクという連想ネットワークはほぼ日本国民全員に浸透しているといえる。つまり、それは視覚による記憶の連想ネットワークの形成、想起の醸成と言い換えることができる

今回のテレビCMも視覚=ビジュアルはこだわり抜かれたクリエイティブが展開されている。ガラスを突き破る、壁を殴る広瀬すず、近未来のような街を颯爽と駆ける吉沢悠。飛びまくる田中圭、侍姿の宮本浩次、爆破されるソフトバンクロゴ、時折現れる白戸家のお父さんなど視覚面でもインパクトが強いことは間違いがない。

しかし、いきものがかりの『WE DO』はスペシャルサイトにも歌詞が公開されているようにあくまで音楽を通して伝えたいというアプローチが垣間見える。ゆえにスペシャルサイトのコンテンツのほとんどが音楽に関わるものばかりだ

 

参考画像
ソフトバンクHPより
https://www.softbank.jp/mobile/special/sing/

長年積み重ねてきたソフトバンクのブランドイメージは主に視覚領域からの結果だった。そこからソフトバンクはついに聴覚領域へのブランドイメージを作り上げるフェーズに移行し始めた

もちろんこれまでの白戸家でもプロコフィエフやチャイコフスキーといった数多くのクラシック音楽が使用されており、コンピレーション・アルバム『白戸(ホワイト)家のクラシック音楽』も発売されているほど、聴覚にもチカラを入れてきた。しかし、それらはあくまで白戸家の面々が主役であり、音楽は脇役だった。

今後、「しばられるな」のマーケティングアプローチとして消費者への記憶の定着が、いきものがかりの『WE DO』でやりきったほうが聴覚へのアプローチとして有効なのか、それとも複数のアーティスト及び楽曲で展開するほうが有効なのかはこれからだが、いきものがかりを始めとした著名なアーティストとのタッグが今後どのようなソフトバンクの連想ネットワークを構築するのか興味深い。

ソフトバンクは音楽でコミュニケーションをとる。その狼煙はいきものがかりの『WE DO』だ。大企業だからできるのではない。予算が潤沢にあるからできるのでもない。音楽や音のチカラはブランドの規模とは無関係だ。しかし、強いブランドは必ず音楽や音を活用している。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

みなさま、よい一年を。