ゴールデンボンバーの「令和」に学ぶモーメントと組み合わせる音楽のチカラ

2019年4月1日。元号が「平成」から「令和」へと変わることが発表されました。

そのタイミングに併せて、ゴールデンボンバーは新元号発表からわずか2時間(実質は1時間)で新曲を公開とすると事前に宣言。

新元号が発表される11時ころからLINE LIVEで制作の様子を生中継。10万人以上が視聴、新元号発表後の0時45分に「令和」の楽曲とMVを公開しました。事前に大部分を制作していたとはいえ、このスピード感はファンならずとも大きな話題を巻き起こしています。

とはいえ、ゴールデンボンバーが実は最速ではなく、レペゼン地球が新元号発表後わずか20分弱で「令和」を発表していたそうです。それ以外にもキュウソネコカミもギリ昭和~完全版~」のミュージックビデオを公開するなど複数のアーティストが新元号のタイミングで仕掛けていました。

□一般化モーメントと先駆けモーメント

そもそもモーメントとは、例えばクリスマスや年明けの瞬間、○○の日といった世の中的にイベントや話題になりやすい出来事やトピックなどの瞬間のことです。なぜ、モーメントを活用するのかといえば、大きなうねりの中で端的に言えば「便乗」することで通常届きにくい人々へ広げることができるからでしょう。今回でいえば、新元号という日本中を巻き込んだ大イベントであり、日本国民の一大モーメントといえます。

これらを活用することで世の中の話題の波に乗ることによって認知や興味、好感度を引き上げることなどが期待されるものだからです。

SNS時代のいまは、アーティストやブランドに関係なくモーメントに合わせた投稿やプロモーションは非常に重要であり、SNSにチカラを入れているブランドなどは事前に投稿スケジュールにモーメントを入れ込んだ投稿カレンダーを作成して、準備しています。

もちろん、モーメントの活用が一般化されているからこそ、埋没してしまうリスクも孕むので優れたアイデアや切り口、クリエイティブをスピード重視で準備しなければなりません。 (余談ですが今年の4月1日は新元号とエイプリルフールというダブルモーメントでした)

モーメントを活用する考え方は2つあると思っています。ひとつはすでに一般化されたモーメントを活用するパターン。市民権を得たイベントと言い換えてもいいかもしれません。ふたつ目は先駆けモーメントのパターンです。

すでに一般化モーメントされたもの、例えば11月11日ポッキー&プリッツの日などはわかりやすいのではないでしょうか。一般化されたモーメントである分、話題の総量も大きいですが、先に述べたように埋没するリスクも含まれるので注意が必要です。

もうひとつは、先駆けモーメント。つまり、新たにモーメントになりそうなもの、一部ではなっているものを活用するパターンです。

例えば、立命館大学が2016年に実施したセンター試験というモーメントに併せたブランディングプロジェクト「#がんばれ受験生」はセンター試験の前日に受験を控えるすべての受験生を応援することを目的にターゲットとなる高校生に聴かれているアーティスト『感覚ピエロ』を迎えて制作された応援ソング『等身大アンバランス』を公開し、大きな話題を獲得しました。

これはセンター試験という一部ではうねり始めていたモーメントをマーケティングに活かす取り組みのひとつだといえます。現にこの施策後、センター試験の前日は多くのブランドが「#がんばれ受験生」を活用しています。

 

□モーメントと音楽の相性

さて、このモーメントと音楽の相性はどうでしょうか。振り返ってみると、多くのモーメントのそばに音楽があったケースは数えきれないほどあると思います。

春夏秋冬、クリスマス、卒業入学、バレンタイン、ハロウィーン、スポーツ大会など一年の中で話題となるモーメントには音楽が紐付いていることが多いはずです。クリスマスソング、卒業ソング、応援ソング、テーマソングと名前の違いはあれど、モーメントのそばには音楽があります

先に述べた立命館大学の施策「#がんばれ受験生」も応援歌という音楽をモーメントに合わせて活用しているパターンと言えます。

すでに一般化モーメントでも、先駆けモーメントだとしても、なにかが「変わる瞬間」なにかが「始まる瞬間」に音楽が発揮できるチカラは大きいのではないかと思います。

感情が高まる、盛り上がるモーメントに対して、メロディーや歌詞のチカラでさらに感情を高めたり、強くしたり、メッセージを翻訳したりすることのできる音楽の価値はもっと注目されてもいいのではないかと考えています。

冒頭のゴールデンボンバーのはなしに戻ります。

今回の新元号ソングを単なるプロモーションとして捉えるのではなく、新元号も含めたモーメントというポイントをどう活かすかを考える必要があると思っています。

他の「令和」を発表したアーティストたちとゴールデンボンバーの違いは、事前・事中・事後の情報設計とマーケティング視点の高さがあるのではないでしょうか。

もともとゴールデンボンバーは非常に巧みに考え抜かれた戦略や戦術を実行し続けているバンドです。これまでも「Mステで新曲をQRコードで無料公開」や「8秒ライブ」など一見奇抜とも思えますが、常に新しい届け方を模索しているバンドです。特に中心の鬼龍院翔は優れたクリエイターでありながら、優れたマーケターでもあります。

今回の「令和」における流れも新元号発表後のスピードもさることながら、事前にニュースを仕込む、事中ではLINE LIVEで配信、事後もTwitterを中心に情報発信、振り付け動画の公開、4月10日にはCD発売など「終わらないニュース」を意識的に設計しています。現に新元号発表後でもメディアはゴールデンボンバーの施策に関するニュースは未だ発信し続けられています。

このように、新元「号が発表するから、話題になるから新曲を発表だ!」といった発想ではなく、完全に僕が勝手に思っているだけですが、鬼龍院翔はモーメントと音楽の親和性、そして、消費されるスピードが早すぎるこの時代のコンテンツ消費を理解していたからこそのゴールデンボンバー流の「令和」だったと言えるのではないでしょうか。

(明らかにゴールデンボンバーは振り付け動画や音楽性などを鑑みると「令和」の賞味期限を年末までと定めているように個人的には思います。そこを目標と定めていま施策を展開しているのではと思っています)

ゴールデンボンバーの『令和』ではこんな歌詞の一節があります。

今は我々の人生は自分次第だから

食うも寝るも伸るも反るも

自由自在な時代

いい時代になることを祈っています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。