レコチョクbest、UULA、Groovy、Spotify、Deezer、Googleなどなどサブスクの音楽サービスは群雄割拠の様相を呈し始めている。
個人的にはどんどん登場していくべきだと思っているし、国産外国産含めユーザにとって価値ある音楽サービスが増えていき、多少の淘汰は起こるにせよ健全なサブスク市場の活性化が起きればと思っている。
さて、もちろんサブスク以外にも音楽サービスは国内外問わず乱立状態である。そのような一連の音楽サービスを見ていていつも感じるのは、「それはコミュニケーションサービスなのか?音楽サービスなのか?」という点だ。
コミュニケーションサービスと音楽サービス
この「それはコミュニケーションサービスなのか?音楽サービスなのか?」という問いはそのままターゲットをどこに設定しているのかにも大いに関わっている。
はっきり言うと、現時点で音楽サービスと括られるもの、ここでは、人と人とを媒介するコミュニケーションツールが「音楽」であると規定する。その人と人とを媒介するコミュニケーションツールが「音楽」のサービスは世の中の誰もが知っている「世の中ゴト」化には到達できないと思っている。
それは音楽好きの中で活用され、母数は多くはないかもしれないが、コアなファンを中心に狭く深く利用されるものになるだろう。
決してそれが間違っているとは思わない。
あくまで音楽好きのソーシャルグラフやインタレストグラフの中で楽しんでもらえることを前提とした音楽サービスならば、それは正解であり、一層、音楽を媒介として濃いコミュニケーションをサービスへ成長していってほしいなあと強く願っている。
一方、世の中ゴトの多くに成長しているサービスは主に音楽を媒介としないサービスである。facebook、twitter、mixi、LINEなどがあげられるだろう。
いま、音楽だけでなくゲームなどを始めとしたエンタテインメントは生活者の可処分時間の取り合いゲームをしている。生活者の時間を頂くことは現在、何よりも難しい。
その中で音楽に特化した音楽サービスが音楽好きを除いて、そこに時間を割くことは可能性としてはかなり低い。
なぜなら、多くの人はそこまで音楽に興味関心がないからだ。よく音楽サービスの機能でソーシャルメディアにフィードを飛ばせるものがある。これは完全に機能的なフィードであり、多くの人にとってはノイズでしかない。
僕自身もよくシェアやツイートを行うが、これは音楽好きのソーシャルグラフやインタレストグラフの中でしか反応しないことであり、ここからましては拡散が起きるわけもない。ただ、共有は行われるだろう。
現在、様々なサービスが生まれている。しかし、生活者の多くは音楽だけに特化したものなど求めてもいない。そして、そこから吐き出された情報も興味を持たない。共通項が音楽だけでは人は飽きる。なぜなら、NO MUSIC NO LIFEな人々なんて本当にごくわずかだからだ。Talk-ableなテーマが音楽だけでは制約がありすぎるし、多くの人にとってそれは価値あるものにはならない。
音楽に特化したサービスはアクティブさも重要な意味を持つ。しかし、僕自身も毎日毎日ログインするわけではない。(するものもあるけど)では、音楽に関与度の低い人たちが毎日毎日ログインするだろうか。
facebookがなぜ、多くの人が利用しているのか。
Twitterがなぜ、多くの人が利用しているのか。
LINEがなぜ、多くの人が利用しているのか。
それは音楽サービスではなく、コミュニケーションサービスであるからであり、音楽を中心としたサービスではないからだ。facebookやTwitterが心地いいのは音楽の話題だけではないことだ。コミュニケーションサービスの中に音楽が内包されている。
だとしならば、音楽サービスと言われるものはどこに目指すのか。それは「仲間ゴト」化だろう。ソーシャルグラフよりもインタレストグラフよりであり、それではやはりユーザ数も決して大きくは望めないだろう。
しかし、さきほど述べたとおりターゲット設定が音楽好きだけであり、その中のトライブの中で可処分時間をコミュニケーションサービスより重視しているユーザを中心に「仲間ゴト」化を目指すのであれば、そのサービスは確実にコアファンを作っていき、ゆっくりではあるが、ユーザ数は増加していくだろう。それはひとつのゴールである。重要なのはサービス設計に基づくクラスタとトライブを意識したターゲット設定である。
サブスクリプションサービスが「世の中ゴト」化を目指す意味
さて、ここで考えてみたい。
いま、いたるところで語られるサブスクリプションサービスは「世の中ゴト」化にたどり着くことができるのだろうか。これは裏を返すと、サブスクリプションサービスが多くの生活者にとって新しい環境で音楽を聴く価値観を形成し、その市場を作らないことにはまず間違いなく多くの音楽サービスのように音楽好きの中だけでしか利用されず、「世の中ゴト」化には到達しないだろう。
これを別の視点で論じた記事が昨日あがっているので、是非。非常に共感する内容になっている。「「聴き放題」だけでは音楽ストリーミングサービスが成功しない理由」
音楽関係者や音楽好きであれば、サブスクリプションもしくは定額制という言葉は当たり前のように理解されている。そして、利用されているだろう。
しかし、その人たちのソーシャルメディアのタイムラインやキュレーションサービスには恐ろしいくらいにバイアスがかかっている。「最近、サブスクリプションよく聞くなあ」これは「あなた」だからである。
多くの生活者にとってそんな言葉は聞いたこともなく、ましては個別のサービスなんて知りもしないのである。この前提を理解した上で、サブスクリプションサービスは世の中に浸透させてなければならない。させなければならないというのは、サブスクリプションまでもが音楽好きの中でしか利用されないということは、ひいては音楽から本当に人が離れていくことを意味する。
もちろん、サブスクリプションサービスだけで事態は好転することはない。そこにはライブ、フェスやヘッドホン、スピーカーなどの音質体験、音楽サービスやマスメディア、ソーシャルメディアなどあらゆるものを活用して各生活者にとっての音楽のLTV(ライフタイムバリュー)を作り出さなければならない。
だからこそ、今一度の表題の件に戻ろう。
「それはコミュニケーションサービスか?音楽サービスか?」
コミュニケーションサービスであるならば、戦うべき相手はfacebookであり、Twitterであり、LINEである。(もちろん、それ以外のリアルも含めた可処分時間を利用するすべてのサービスがあてはまる)
そのような事態だからこそ、facebookとspotifyは連携したり、LINEの中で音楽をという流れになってくる。だけど、コミュニケーションサービスに組み込まれるだけでもダメなのだ。
音楽があったからこそ、あのメロディが、あの歌詞があったから生きていける。そういう人たちを作っていく。そのためには音楽を聴いてもらわねばならない。その音楽を聴く時間やツールは凄まじいスピードで変化している。だからこそ、いまサブスクリプションサービスに期待したいのだ。
音楽サービスは「世の中ゴト」化には到達しない。
コミュニケーションサービスは「世の中ゴト」化に到達「しやすい」可能性がある。
コミュニケーションサービスと音楽サービスの役割は違う
それぞれの音楽サービスがどのターゲットに照準を絞り、「自分ゴト」化からどのような「仲間ゴト」化を目指すのか。一方、サブスクリプションサービスは「自分ゴト化」からどのように「仲間ゴト」化を作り出し、「世の中ゴト」化まで目指すのか。逆に「世の中ゴト」化から「自分ゴト」「仲間ゴト」にしていくことだって出来る。「業界ゴト」では何の意味もないのだ。
サブスクリプションサービスだって「仲間ゴト」化までいいだろうという意見もあるだろう。しかし、音楽を聴く新しい形であるサブスクリプションを僕は多くの人に使って欲しい。
新しい音楽に出会う喜びでもいい。
ただただ好きなアーティストだけを聴いてもらってもいい。
とにかく音楽をもっと多くの人に手にとってもらえるようにソーシャルインフルエンスを含めた「世の中ゴト」化を目指したい。サブスクリプションで音楽を聴く土壌と空気を作り出し、カジュアル世論を作る。曲数や価格ではなく、新しい音楽の聴き方を一部の音楽好きではなく、一般の生活者へ「価値観」」「トレンド」「問題意識」を生み出していく。そんなサブスクリプションサービスについての考察はまたの機会に。
そして、音楽の関与度を引き上げ、数ある素晴らしい音楽サービスへたどり着いて、僕がそうだったように、また新しい音楽や仲間に出会って欲しい。そして、その先には音質などの領域へまで行ってくれたら、どんなに素晴らしいかと思う。
生活者の時間は有限だ。その中で音楽の関与度は減少傾向にある。
それはお金を払う払わない以前の問題だ。
音楽を日常の国にするために、コミュニケーションサービスや音楽サービスはそれぞれ異なった役割を担っている。それらのチカラを融合させて、音楽がもっともっと豊かになって聴かれ、アーティストに還元され、強く日本だけでなく世界までを含めた形で鳴っていけばと願ってやまない。
1000万人級の「世の中ゴト」化を目指すもの、10万人級の音楽好きの「仲間ゴト」化を目指すもの、どちらも必要なことだが、なんだかひどく混じり合っているような気もしながら、もしくはどっちつかずものが多い中で、せっかくそれぞれ素晴らしいサービス群があるのだから、役割を相互に理解した上で、それぞれ重要なミッションがあるはずだ。
それは儲かる儲からないも忘れてはならない大切な要因なのだけど、もう少し前にできることがあるのではないだろうか。音楽がもっと「能動的に」人々の日常に根付くために。
その中で、僕は僕ができることを小さいことかもしれないけれど、トライしていきたいと思っているのである。
【独り言】
David Bowieの新作が最高過ぎてヘビーローテーションな3月です。そして、フジロック。ヨダレが止まりません。記事トップの写真とタイトルが全く合っていないのは、単に僕がフジロックに焦がれてるだけです。
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- 第1回 : 2013年4月11日(木) 20:00-22:00
- 第2回 : 2013年4月25日(木) 20:00-22:00
- 第3回 : 2013年5月9日(木) 20:00-22:00
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