Mr.Childrenから学ぶ新しい音楽との出会いにコンテクストデザインはどこまで価値があるのか?

潮目が変わりつつあります。音楽サブスクリプションサービスは、AWA、LINE MUSICを初めとしてKKBOX、レコチョクbest、Apple Music、Google、Spotifyなどいよいよ群雄割拠の時代を迎えつつあります

そういったサービス群の中に必ず語られるワードとして、「ミュージックディスカバリー」があります。つまり、新しい音楽に出会う価値や体験がより一層、音楽への関与度を高め、音楽の流通量(データ含め)を増やすことができるという考え方です。

この「ミュージックディスカバリー」を語る際に、「ミュージックディスカバリー」の価値=新しい音楽に出会えることを語られることは数あれど、「ミュージックディスカバリー」=新しい音楽に出会う、出会いたいという物語をどのように作っていくのかという議論はほとんどされません

もちろん、それはテクノロジーやビックデータを活用したリコメンドシステムで対応できることも数多くあります。その結果、精度の高いリコメンドを生み出し、コアな音楽ファンだけでなく、ライトな音楽ファンへの「ミュージックディスカバリー」の物語を描くことが出来ます。むしろ、これからの時代、テクノロジーやビックデータを軸にした音楽との融合は加速していくのは間違いなく、IoTなども含め大きな可能性とフィールドがあります

しかし、必ずしもテクノロジーやビックデータだけが「ミュージックディスカバリー」の物語を描くわけではありません。人を通して、声を通して、マスメディアを通して、デジタルメディアを通して、描くことのできる「ミュージックディスカバリー」も存在します

◆Mr.Childrenが挑戦したニューアルバム「REFLECTION」

6月4日、Mr.Childrenが2年7ヶ月ぶりのニューアルバム「REFLECTION」を発売しました。本作「REFLECTION」の一連のコミュニケーションデザインは、「ミュージックディスカバリー」の物語を描く際にテクノロジーやビックデータとはまた違う方法論と見せています。

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まず本作のツアーは新曲アルバムツアーでした。つまり、ほとんどのお客さんが楽曲を知らない状態でツアーに足を運ぶということです

「音楽とは既知のものが盛り上がる」という傾向があります。これは音楽特有の事象です。どういうことかといえば、ミスチルのライブで考えた場合、新曲よりもイノセントワールドのほうがお客さんは喜ぶ/盛り上がるという事実です。映画や小説のようなものは、基本的に新作をファンは欲します。もちろん、音楽だって同様です。しかし、音楽の違う点は「不特定多数と共有体験がある」ことです。

これによってヒット作や歴史を重ねてきたミュージシャンであればあるほど、ファンとミュージシャンの共有体験の同一性が時間軸と共に蓄積され、結果「既知のもののほうが盛り上がる」ことになります。

そういった観点で考えた場合、いくらMr.Childrenでも大きな挑戦であったのではないでしょうか。だからこそ、Mr.Childrenは丹念に新作メインツアーだとしても、ファン/非ファンが構えてしまわないようにコミュニケーションをデザインします

◆コアファンから徐々に新作の波紋を伝える

Mr.Childrenはまずファンクラブツアーで「ミュージックディスカバリー」を始めます。ファンクラブツアーですから当然コアファンです。ある意味、ホームグラウンドともいえます。しかし、Mr.ChildrenはMCの中にそれぞれの楽曲の意図や背景を丁寧に語ることで新曲というハードルをコアファンであったとしても、聴きやすい空気づくりを形成します。

そして、次なる一手はこのファンクラブツアーの映画化です。もともとファンクラブツアーですから倍率含め希少価値の高いライブです。これを3週間限定とはいえ、映画化にすることでコアファンならびにミドルファンを映画館というメディアを使って「REFLECTION」を伝えていきます

また、映画館という空間は一層、新作「REFLECTION」をしっかりと聴かせることができますし、桜井さんのMC含めその場の空気をも届けることが可能になります。加えて、CMやテレビ番組エンディング、映画主題歌などを通して、広くあまねく、それはコアファンからライトファンひいては非ファンにまで「REFLECTION」の断片がマスメディアを活用して届けていくことが可能になります。

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そして、新宿駅での限定音源視聴OOHなどの施策も含め、ファンの熱量と新作「REFLECTION」はコアファンを中心にしながら、水の波紋のように、もしくはまさにタイトルとおり「REFLECTION」=反射させながら、広げていっているのが施策を通して見えてきます。

そして、いよいよ全国アリーナツアー「REFLECTION」が始まります。

ツアーでも「REFLECTION」に必要以上に聴き入らないように、音楽を純粋に楽しめるようにセットリストやMCや演出を通して「REFLECTION」の音楽をすっと心に残る「ミュージックディスカバリー」の届け方をされたのだと思います。

映画が公開後、さらに時期を変えて一週間アンコール上映したり、常に終わらないニュースを提供し続け、ソーシャルメディアの語りたくなる要素を作り、ファンがコンテクストデザインを理解できるような物語の伝え方をしていたのは非常に興味深いです。

同時にファンの熱量をリアルからソーシャルメディアで引き上げる施策をメモリアルスタンプという形で各会場に設置します。それをファンがあらゆるモノにスタンプし、ソーシャルメディアで話題となります。(中身は、手の甲だったり、トートバックだったり、コースターであったり、はたまたまな板まで!)これが仮に結果的だったとしても、ソーシャルメディアで話題を作る要素「Talk-able」「Shar-ble」「Buzz-able」の要素を兼ね備えています。(参考:ミスチルの「メモリアルスタンプ」活用法がすごい!)

いよいよ6月4日のアルバム発売と同時にツアーも最終日を迎えます。そこではスカパーでの4K生中継が入ることもあり、スカパーのCMが大量に投下され、OOH、ラジオ、雑誌、街頭ビジョンとフル活用して、いよいよアルバム発売に向けて世の中を動かしていきます。同時にそこでも「REFLECTION」の断片をまぶしたCM構成で「ミュージックディスカバリー」の入口を設計しています。

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◆Mr.Childrenといえども「ミュージックディスカバリー」の物語が必要

「ミスチルの新作ならば誰もが聴きたいのではないか?」と思う方もいるかもしれません。しかし、いまこの時代はそう簡単ではありません。音楽は聴いてもらえる前提では、もはや聴いてもらえません。だからこそ、サブスクリプションサービスはリコメンド機能を強化し、「ミュージックディスカバリー」を提供しています

しかし、Mr.Childrenの場合はファンの深度/熱量を活用して、文脈を作り、きっかけを生み出し、「REFLECTION」に伴う物語をあらゆる施策を通してコンテクストデザインを描いたといえるのではないでしょうか。

歌詞やメロディ、バンドとしての物語は何より必要です。そこに加え、コミュニケーションデザインの観点からもいま、物語は必要だと思います。新しい音楽はこれからも多くの人に聴かれ続けるべきです。しかし、音楽も映画も小説も最新作が新しい音楽ではないのです。

20年前の音楽でも、いま知ったならばそれは紛れも無く「新しい音楽」なんです。テクノロジーのチカラでいくらでも僕らはボタンひとつで簡単にアクセスできる時代になりました。その結果、音楽が過去を超えて現在へと聴かれるチャンスが今まで以上に増えました。それは間違いなく「ミュージックディスカバリー」です。素晴らしいことです。

同時にいまの「新しい音楽」まさしく最新作を聴いてくれる機会は少なくなりました。ましてや、ベテランであるほど既知の曲をファンは共有体験として求め、時間が止まってしまうことがあります。今回のMr.Childrenの一連のコミュニケーションデザインは、新しい音楽との出会いにコンテクストデザインは必要なことを教えてくれたような気がします。

「Mr.Childrenは話が別だろう。やれる範囲もファンの母数もお金もブランドもあるからだ。」

そうでしょうか?僕は国民的バンドであるMr.Childrenでも今までの音楽の届け方から一歩先を目指さなければいけないというひとつの問題意識の提示だと思っています。その規模は別としても、コンテクストデザインの重要性はどんなミュージシャンでも当てはまる、参考になることはあるのではないしょうか。

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Mr.Childrenはさらに夏からスタジアムツアーが始まります。物語はまだ続いていくのだと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。