第二章:THE NOVEMBERSがドロップした新作アルバム「Rhapsody in beauty」で描いたマーケティングの全貌

THE NOVEMBERSが10月15日にリリースしたニュー・アルバム「Rhapsody in beauty」のマーケティングコミュニケーションの物語はブログ全3部作うち、今回は第2章になります。

前回の記事の続きになりますので、読まれていない方はまずはこちらからご覧ください。

THE NOVEMBERSがドロップする新作アルバム「Rhapsody in beauty」で描いたマーケティングの全貌(Part1)

Part2の今回は、アルバム発売前の施策とアルバム発売日当日の施策までを書いていきます。Part1では、ジャケット公開のニュースから、上條淳士先生の新作アー写、雑誌「音楽と人」でのレターアド、そして、Spotifyでの世界先行配信までを実施し、そして施策と施策を埋めるセカンドニュースの重要性を記してきました。

さらにアルバム発売前のマーケティングコミュニケーションは続いていきます。

◆施策5:「Rhapsody in beauty」11時間フル視聴

Spotify世界先行配信を実施した後、次なる一手は日本国内にいるファンになります。今ではだいぶ世界的にアルバム発売前にデジタル上でフル視聴はベーシックなことになりました。

しかし、ただただ音源を垂れ流しても意味は無いですし、その結果アルバムやiTunesで購入してくれるかもしれない層を取りこぼしてしまう可能性もあります。よって、時間軸で切るというのがフル視聴を実施する上で大切なポイントです。

THE NOVEMBERSの場合は、バンド的にも「11」が重要な意味を持つので今回は11時間限定のフル視聴をYouTubeで実施しました。

なぜ、YouTubeなのか。フル視聴であればSoundcloudでもいいでしょうし、自社サーバーに上げることだっていいわけです。大切なことはフル視聴の時間軸とターゲットに合わせたフル視聴プラットフォームの選択です。

youtube-logo

今回の11時間限定フル視聴は出来る限り最大公約数の人たちに聴いてほしいという意図がありました。それはまさしく「誰にでも簡単に使える場所」でというのが実施条件になります。

それを踏まえた際にSoundcloudではなく、音楽のデータベースとなっているYouTubeこそが11時間限定フル視聴に合わせたプラットフォームとしてふさわしかったのです。

そして、ファンの中には「聴いた」「間に合わなくて聴けなかった」「あえて聴かなかった」などさまざな選択が生まれます。11時間限定フル視聴での「パラレルワールド」はリスナーが選択することで完成する「パラレルワールド」になっています

◆施策6:「僕らはなんだったんだろう」24時間限定フリーダウンロード

11時間フル視聴を10月8日の11時から実施したあとに、同日23時から24時間限定で「Rhapsody in beauty」のラストナンバー「僕らはなんだったんだろう」のフリーダウンロードを開始しました。

11時間限定フル視聴はあくまで「聴ける」だけであって、データを音源を持てるわけではありません。11時間限定フル視聴の結果、ソーシャルメディアを中心にファンの作品に対する声が生まれます。

「アルバム早くほしい」「これはライブにも期待」などポジティブネガティブ含め声が集まり始めます。この時点でアルバム発売までに約1週間以上のタイムラグがあります。これでは新作の熱量が発売時まで維持するのは難しいといえます。なぜなら、フル視聴はもう聴けないのですから。

そこで、THE NOVEMBERSからのプレゼントとして、「僕らはなんだったんだろう」をリスナーにプレゼントすることを熱量が高い内に実施しました。その結果、リスナーは音源を一曲であれ保持することができますし、アルバムラストナンバーという意味付けも踏まえて、物語が生まれます。

また、「僕らはなんだったんだろう」はSoundcloudで実施しています。11時間限定フル視聴がYouTubeだったのに対し、なぜこちらはSoundcloudなのか。それにはふたつ理由があります

一つ目は、リスナーに一手間アクションをしてほしかったからです。普段からSoundclondを使いこなしているリスナーからすると簡単ですが、まだまだSoundcloudはそこまで一般化していません。なので、ダウンロードのボタンなどが一見わかりづらいのです。その一手間をいただけることで、お返しに「僕らはなんだったんだろう」をプレゼントするカタチをとりました。

実はSoundcloudの施策は今はもう24時間を過ぎたのでフリーダウンロードは行っていませんが、「僕らはなんだったんだろう」を聴くことは出来ます。それが海外を意識した上での狙いであり、ここでも海外と日本という「パラレルワールド」と「聴いてかもしれない未来」と「聴かない未来」の平行世界が存在しています

◆施策7:ミュージックビデオ「Romancé」- Normal Ver -公開

続いて10月13日にミュージックビデオ「Romancé」- Normal Ver -が公開されました。これまで「Romancé」にはあまりフィーチャーせず、「僕らはなんだったんだろう」や「Xeno」「Rhapsody in beauty」などが楽曲として訴求されていたと思います。

シングルカット的な楽曲を一般的には抽出し、プロモーションの軸にする傾向はありますが、実際ニュー・アルバム「Rhapsody in beauty」はあらゆる楽曲の強度がとても強い作品です。よって、一連のマーケティングコミュニケーションによって多角的に楽曲を訴求するという方法論で戦略しています

ミュージックビデオは「今日も生きたね」と同じチームでBOOM BOOM SATELLITESのクリエイティブディレクターを務めたminsakが監修、トチハラヒロタカが監督を担当して制作された作品です。モノクロの世界に水色が水に溶けるような内容になっており、ニュー・アルバム「Rhapsody in beauty」のコピーである「世界が、ゆらめく」の世界観を可視化したものです。

「Romancé」- Normal Ver -は文字とおり、Nomalなので当然それ以外のバージョンが存在します。もうひとつのバージョンは、テクノロジーを用いたミュージックビデオになります。ミュージックビデオにも「パラレルワールド」を仕掛けています。もう少しだけお待ちください。

◆ 施策8:雑誌とライブをつなげる「After Stage Pass」

ニュー・アルバムが10月15日に発売されたわけですが、同日に発売した音楽雑誌「MUSICA」でも、「音楽と人」のように今までの既成概念に囚われない雑誌広告を展開しています。おそらく世界初のプレキャンとはまったく別軸の「雑誌→ライブをつなげる施策」になったのではないかと思います。

「After Stage Pass」と名付けられたこの施策は、雑誌「MUSICA」とコラボレーションし、雑誌購入者全員に11月28日(金)新木場スタジオコーストで行われるツアーファイナルのライブ終演後にTHE NOVEMBERSが演奏していたステージに訪れることができ、THE NOVEMBERSが見ていた景色を同じように見ることが出来る特典です。
asp3

O2Oといえば、Online to Offlineですが、「After Stage Pass」はOffline to Offlineになっています。雑誌広告のあり方はもっと自由でもいいのではないか、「音楽と人」と同様ただただ雑誌広告を出稿しても、もはや意味はありません。せっかくお金を出して出稿するなら、その雑誌に沿った文脈や世界を体現しながら、ニュー・アルバムの発売やライブに寄与する、そして「MUSICA」をファンが購入したくなる広告でありたい。そういった話し合いの中で生まれたのが、ライブ終演後にステージにあがることができる「After Stage Pass」です。

スクリーンショット 2014-10-16 1.05.06

そして、これが最も重要ですが、なによりこれはファンへの感謝という側面で生まれたものでもあります。THE NOVEMBERSが新木場スタジオコーストにたどり着いて、このステージに立てたのはファンのおかげです。ファンのおかげで立てたステージを一緒に共有したい。あなたがいなかったら描くことができなかったステージをリスナーにも見てほしい

ヴォーカルの小林祐介くんは「After Stage Pass」についてこう述べています。

「僕たちにこの景色を見せてくれたこと、このステージへ連れてきてくれたこと」に対する感謝を何かしか(出来ればモノではなく体験として)で表現したい、という想いから「AFTER STAGE PASS」の企画へ辿り着きました。

「どうもありがとう、これはあなたが僕たちに見せてくれた景色です。」

広告枠にはフェイクの「After Stage Pass」がデザインされ、実際の「MUISCA」アンケートハガキがあるページに本物の「After Stage Pass」が封入されています。それを11月28日(金)の新木場スタジオコーストにライブチケットと一緒に持ってきてくれると意味を持ちます。ですので、ファンの方はぜひ、「MUSICA」を購入して、THE NOVEMBERSがあなたのおかげで立てた景色を、あなたも見てほしいと思います。

◆施策9:ファンとファン以外に届ける「MUSICA限定」Special Web Live

実は「MUSICA」とのコラボレーションは「After Stage Pass」だけではありません。並列に並んだもうひとつのカードには「INVITAION」と記載されています。これは「MUSICA」購入者全員にプレゼントされる「Rhapsody in beauty」の無料のWebライブへの招待状です。

東京だけの施策では、地方のファンに不公平になる。なんとか今作をツアー以外のカタチで届けたい。そこから生まれたのが、「Special Web Live」になります。10月15日23時から始まるWebライブは、最速の「Rhapsody in beauty」のライブです。11月30日まで見ることができますので、地方の方でも安心してご覧になることが出来ます。「INVITAION」の中にはパスコードが記載され、アクセスするとライブ映像を見ることが出来ます。

ちなみにそのライブ映像はMUSCIA限定がもったいないくらいクールでカッコ良いライブ映像になっています。是非、ご覧ください。アーカイブもありますので、MUSICAのパスコードがある方は、以下のURLから見てみてください

「TOUR – Romancé – Special Web Live」

ライブに訪れてくれるファンは、もちろんのこと「MUSICA」を買った読者、つまりTHE NOVEMBERSを知らない層や名前だけ知っていてライブまでは行くモチベーションがない層へ向けたTHE NOVEMBERSの招待状です。「After Stage Pass」と「Special Web Live」の二段構えで、ファンとファン以外が楽しめる施策を、新しい雑誌広告の提示を、「Rhapsody in beauty」とツアーが有機的に結合する施策を展開しています。

「After Stage Pass」でライブを。「Special Web Live」でライブを。リアルとデジタルを行き来する「パラレルワールド」が雑誌「MUSICA」を通して届けられることになります。

スクリーンショット 2014-10-16 2.14.15

◆「Rhapsody in beauty」の物語は続いていく

ここまでが「Rhapsody in beauty」にまつわるマーケティングコミュニケーションの第二章です。アルバムが発売されるまでに9つの施策がありました。加えて、そのあいだにはセカンドニュースが接着剤のようにつなげていきます

そして、まだ物語は続きます。まずはついに発売された「Rhapsody in beauty」の音楽の世界に触れていただきながら、もう少しお待ち頂ければと思います。

次回は11月28日(金)の新木場スタジオコーストまでを含んだ施策になります。それをお話できるのは、もう少しあとのはなしです。

また、これら一連の「Rhapsody in beauty」のマーケティングコミュニケーションにまつわる話や、「今日も生きたね」のマーケティングコミュニケーションなどをTHE NOVEMBERSのヴォーカルである小林祐介くんと僕でトークセッションを行います。

11月1日~3日に恵比寿で行われる「YEBISU MUSIC WEEKEND」音楽を届ける新時代のチームづくり 〜THE NOVEMBERSの音楽マーケティングのすべて〜と題して、いろいろ小林祐介くんと話していきたいと思います。また、モデレーターには音楽ブロガーであるジェイ・コウガミくんを招きます。

YMW-Eyecatch

アーティスト自身がマーケティングを語るというのは、日本においてあまり例がないので、是非いらっしゃってください。THE NOVEMBERSのライブも同日です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。