アテンションエコノミーにおけるAISASを実現するデジタルポップのシカケ

アテンションエコノミーを獲得することがとても難しくなった現在。
そもそもアテンションエコノミーとは、アメリカの社会学者Michael H. Goldhaberが提唱したもので、インターネットに代表されるような情報発信媒体が増えたことで、人々の「アテンション(=関心・注目)」が情報量に対して稀少になることで価値が生まれ、交換財となりえるという概念です。

つまり、情報は無限に溢れ出しているけど、僕らが処理できる、興味を持てることのできる情報量って昔と変わっていない。なのでどの情報に注意、アテンションを向けるべきか、ユーザーの注意、アテンションをどうすればひきつけられるかということになります。

そのような状況を踏まえた情報大爆発のいま、生活者にまずアテンションを向かせることは凄まじく難儀になったということです。それはマスメディア、デジタルメディアを問わずです。

昔はそうでもありませんでした。生活者にとって選択の種類が少なく「こちらにどうぞ」と言われれば、大方(もちろんすべてではありませんが)企業やブランドは促すことができました。

しかし、そうではなくなった状況において新しい製品やアーティストはどのようにしてアテンションを獲得していけばいいのでしょうか。

◆リアル店舗でもアテンションエコノミーが必要

タワーレコード渋谷店に訪れたことがある方ならご存知だと思いますが、音楽という括りの中でも情報は大爆発しています。

店内には無数の平台とポップで溢れ、枠の取り合いや大規模な商品展開が行われています。
そこにはすでにアテンションエコノミーの戦いが始まっています

予算が潤沢にあるアーティストであれば、いちばん目立つところに平台を並べポップを制作し必ず導線上通るところだったり、視界に入るような枠を手に入れることができます。

よい導線上に平台やポップを設置したり、視覚的に大きい装飾のポップを展開する目的は、つまるところ、アテンションエコノミーを獲得することにあります。

しかし、有名でもないアーティストが運良く平台を獲得し展開しようとしても大々的に展開できるわけではありません。もはや結果的にその展開場所に来てくれることを願うしかありません。ということは、導線上の問題が死活問題になります。

◆Aureoleがタワーレコード渋谷店で仕掛けるO2O施策

3月11日に6人組の音楽集団「Aureole」がタワーレコード渋谷店限定でライブベストアルバム「Awake」を発売します。それに伴い、タワーレコード渋谷店さんのご協力もあってタワーレコード史上でも例を見ない大々的なTwitterのハッシュタグを用いたO2O施策を実施しています。

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※O2Oとは
Online to Offlineの略。オンライン(インターネット)の情報がオフライン(実世界)の購買活動に影響を与えたり、オンラインからオフラインへと生活者の行動を促す施策を指す

O2O施策の企画名は「Hashtag Awake」と言います。ライブベストアルバムのタイトルでもありますが、Aureoleはアテンションエコノミーを獲得するために3月10日から一週間実施されます。僕は今回、コミュニケーションデザイナー/クリエイティブディレクターとして参加しています。

「Hashtag Awake」の概要は、タワーレコード渋谷店内にアルバム名「Awake」にちなんだ「#○○で目覚める?」「#××で目覚める?」など“目覚める”というキーワードの前に書かれた異なる9つのハッシュタグをTwitterで検索すると、それぞれのハッシュタグに応じて、Aureoleの楽曲を試聴できたり、バンド情報、ミュージックビデオなど見る事ができるようになっています。

今回のO2O施策「Hashtag Awake」は、「デジタルポップ」という概念のもとで設計されたリアルとデジタルを掛けあわせたタワーレコード渋谷店をジャックする企画です。

◆Twitterのタイムラインを「止める」という考え方

そもそもTwitterとはコンテンツが「流れていくもの」です。ですから、いかに「目に止めてもらうか」が難しくポイントになります。つまり、Twitterとはフロー型のソーシャルメディアです。

しかし、本施策「Hashtag Awake」は誰も使っていないハッシュタグを活用して、そもそものタイムラインを「止める」ことでコンテンツをストックする考えのもと設計されています。本来あるべきものがない場所に、現れた違和感。本来なにもないはずの場所に、現れる違和感。それらをTwitterを通してつなげます。(Twitterの不具合で検索しても出ないときがあります涙)

タワーレコード渋谷店の中の様々な箇所に設置された9つのハッシュタグ。ユーザーが検索すると各ハッシュタグに応じて違ったコンテンツがストックされています。あるハッシュタグは新曲のミュージックビデオであったり、あるハッシュタグは楽曲試聴、ライブ情報であったり、あるハッシュタグはバンドの紹介だったりします。

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ハッシュタグを検索することを促すシカケはよくあります。しかし、その多くが流れてくるハッシュタグを盛り上げる参加促進だったり、話題になっていることを可視化することが目的です。今回はそうではなく、「止めて」「見せる」ことに注力しています。

同時にあくまでここタワーレコード渋谷店で「見てもらうこと」です。なので、ソーシャルメディアをクローズドに使うTwitterの本来の用途とは違う逆説的なデジタル施策です。

もちろん、すべてのハッシュタグを探して検索してくれたら嬉しいですが、実はそこは目的ではありません。すべてのハッシュタグを検索する必要はないのです。ポイントは、どれか一つのハッシュタグで充分ということです。

「Hashtag Awake」の目的は3つです。
・タワレコのリアルにある各アーティストの広告と差別化
・タワレコのどこの場所であれ、たったひとつでも検索してくれてAureoleに
触れてもらう。(つまり、Aureoleに目覚める=Awake)
・新しい音楽を求めている顕在顧客の場を最大活用する

◆デジタルポップという名のコンセプト

リアルなポップ展開の中で無名のAureoleが競っても可能性は極めて薄いでしょう。コンセプトは「デジタルポップ」です。リアルは情報があふれている。ただし、デジタルには無数の空白地帯があります

そのため、ただただタワーレコード渋谷店内に9つのハッシュタグを看板、ポスター含め張り巡らせても、なかなか検索はしてもらえないでしょう。というか、ほとんどが検索しないでしょう。しかし、あらゆるところに同じクリエイティブで統一することで、「無意識的だった視認」を最終的には「意識的に視認する」状態へ誘導できたらと思います。

そこを改善するために、「デッドタイム」と「視点」から展開ポイントを設計します。

「デッドタイム」とはどういった時間なのでしょうか。それはまさに音楽を試聴していたり、店内を回っているときとなります。もちろん、目当ての音楽を探しに来たりもしますし、試聴であれば音楽を聴いているのですが、そのあいだは音楽に集中しつつも何をしているかといえば、多くがタワーレコードさんが書かれたポップを読んだり、CDジャケットを見たり、スマホをいじったり、意図もなく店内を見回しています。

この時間をうまく活用するために、次は「視点」について考えます。を実は広告の設置というのは人の視線に基づく場所に設置することが多いです。

電車の中の広告を見回してみても「視点がそこにある」場所に展開されていることが多いのではないでしょうか。電車の壁、中吊り、上段。あれらはすべて「視点がそこに行くから設置されている」のです。

では、タワーレコード渋谷店でこの「Hashtag Awake」を実施する上で、「視点がそこにある」場所はどこのなのでしょうか。それは腰から下の視点です。

全体的に視点を下げるようにCDなどは配置されています。(そうではないことも、もちろんあります)なので、必然的に来店者は視点が比較的「下向き」になります。だからこそ、床や平台の側面、数々の試聴機、エスカレーター、トイレ、エレベーターのボタン、ライブ告知場所、3階のレジなどに9つのハッシュタグを配置(#さあ何が始まる?までを含めると10個)しています。

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この試聴などをしている「デッドタイム」と「視点がそこにある」ことを活用しながら、「Hashtag Awake」というO2Oを展開することで、音楽に関与度の高い来店者に対して訴求します。

◆リアルとデジタルを掛け合わせる可能性

「Hashtag Awake」は無名のバンドが情報が溢れかえるリアルのポップの世界でどうやったらアテンションエコノミーを獲得できるかがテーマでした。

しかし、当たり前ですがアテンションを獲得しただけでは意味がありません。その先こそが重要です。そこでO2O施策「Hashtag Awake」はAISASという購買プロセスを「その場で完結する」ことができます

AISASは、「アイサス」と読み、電通が提唱する購買行動プロセスを説明するモデルのひとつであり、インターネットの普及後の時代の購買行動を表しているのが特徴です。
(SIPSというフレームワークもありますが、これはAISASにとって変わるものではなく、並列に存在するフレームワークです)

AISASでは、購買行動プロセスとして、以下の5つがあります。

Attention(注意)
Interest(関心)
Search(検索)
Action(購買)
Share(情報共有)

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このプロセスに基づけば、ポップが溢れかえる場所に異質のハッシュタグを多面的に展開し、
Attention(注意)を獲得し、Interest(関心)を引き、その場でSearch(検索)があり、コンテンツを用意し、そのままAction(購買)へすぐ動くことができ、店内に展開するハッシュタグやコンテンツをRTやツイートなどでShare(情報共有)を起こすという流れです。(まあ、まずここまでいくことはないでしょうけども笑)

もちろん、これは理想型ですがリアルとデジタルを掛けあわせ、平台やポップはこうあるべきという規制概念以外の挑戦をしています。裏を返すとデジタルだけでもやはり意味がなく、いかにして既存の平台やポスター、ポップ、看板などを有機的に接続させてコミュニケーションを設計するかではないかと思っています。

O2Oというと何がかしらのテクノロジーや機器が必要なイメージもありますが、まだまだそうではない形でも様々な可能性があると思っています。

ソーシャルメディアも拡散することが用途として思われがちですが逆に「止める」といったこともできるので、ソーシャルメディアとの融合の仕方においてもまだできることはあるのではないでしょうか。

そして、ポイントは既存のリアル店舗である平台、ビジョンの映像やポップやポスター等と組み合わせることでより可能性は広がると思っています。

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また何より重要なのは「面白ければいい。突飛なことをやればいいわけではない」点です。大切なのはアーティストの音楽や世界に沿うことであり、戦術主眼ではなく、戦略を組み立てることです。

今回のO2O施策「Hashtag Awake」も戦術でしかありませんその先にあるゴールを見据えた上でアーティストと共に考え進めていくことが大事だと思っています。

3月10日から一週間タワーレコード渋谷店で展開されています。1階と3階にある平台では、メガネをかけると映像が見れる不思議なディスプレイも展示されてます。今回の施策の改善点を挙げればキリがありません。でも、ひとつ今回こういったチャレンジをしてみました。

「Hashtag Awake」はタワーレコード渋谷店のいたるところに張り巡らされています。探してみるのも面白いかもしれません。一体どんなハッシュタグがあるのか、それに紐づくコンテンツは何なのか。お楽しみください。

Aureoleのタワーレコード渋谷店限定ライブベストアルバム「Awake」もよろしくお願い致します。

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同時にタワーレコード渋谷店でAureoleはライブを行います。

4/10(金)タワーレコード渋谷1F 20:00 START
※ライブは観覧フリー。ライブ後のサイン会は「Awake」購入特典のチケットを持っている方のみ参加ができます。

4/30(木)タワーレコード渋谷店B1F「CUTUP STUDIO」20:00 START
※「Awake」購入特典のチケットを持っている方のみ入場できます。

よろしくお願い致します。

最後まで読んで頂きありがとうございました。