音楽の体験共有を増幅させるために前提となる2つのこと

フジロック

先日、話題になったJAY KOGAMIくんCOLDPLAYのブログにインスパイアを受けて、
ちょっと関連のあるブログを書いてみようと思う。

COLDPLAYが会場で、参加者全員に配布される無料のリストバンド「Xylobands」から生まれる体験の【共鳴】と【共有】はライブ×テクノロジーの未来を描いたように思う。

ライブというリアルこそが【共鳴】を引き起こす可能性が最も高く、
リアルだけがファン階層のレイヤーを一気に引き上げることができる。

そこにはもちろん、素晴らしいパフォーマンスがあり、楽曲があり、照明や映像があり、それらが見事に化学反応が起きたとき、オーディエンスは【共鳴】する。【共鳴】するから、【共有】しようとする。

さて、今回はリアルという【共鳴】をより一層増幅させるために、体験共有の前提について考えてみたい。

ノエル・ギャラガーのライヴDVD発売ツアー写真コンテスト

現在、ワールドツアー中のノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズは秋に発売が予定されているライブDVDのプロモーションの一環で画像共有アプリ「INSTAGRAM」を使用したツアー写真コンテストを開催している。

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ファン投票とノエル自身によって選ばれた写真は、DVD商品ブックレットのアートワークに使用される。ここが最もこのプロモーションの価値あるところだろう。

各会場ごとにハッシュタグが設けられ、それぞれユーザが自由に写真を撮り、ソーシャルメディア上に発信され、【共有】される。日本ではフジロックでこの試みは行われる。

リアルでの【共鳴】に加え、自分が参加したライブであれ、フェスであれ、その瞬間がパッケージされたモノは「自分ゴト化」しやすく、購入へのハードルも低い。そこで重要なのはいかに「熱量」を落とさないかということである。そのために「お持ち帰りCD」やネット上ですぐさま購入できる試みを奥田民生さんやレッチリは実施している。

しかし、このようにのちに発売されるパッケージに自分が参加したライブやフェスが組み込まれ、もしかしたら自分の写真も使われるかもしれなければ、「熱量」は減退したとしても、「自分ゴト化」は維持される。

リアルでの「熱量」を写真という形にしてのユーザ参加は、そのライブをいつも以上に特別にすることができる。且つ、ソーシャルメディアへの伝搬も期待できるというメリットもある。

日本ではライブやフェスでの写真、撮影は基本NGである。
常々このブログでは「音楽を解放することが、音楽を引き寄せる」と述べてきた。
これは音源だけでなく、リアルというライブやフェスもユーザに解放していくことで、音楽を引き寄せることができる。
【共有】される写真のすべてがノエルなわけではなく、フェス会場の写真や友達同士の写真もあるだろう。音楽を解放するうえで、リアルでの解放も大事な項目だ。

しかし、一方でデメリットも存在する。それは「誰もが気持よく参加できるか」である。

例えば、ノエルのこの試みは「不快に思う人もいる」ということだ。
フジロックで例えば隣の人が、前の人が終始撮影されていたら、しっかりと見たい人、歌い人にとっては、決して気持ちのいいものではないだろう。

これではせっかくの【共鳴】も薄らいでしまうし、もしかしたらせっかくのリアルがマイナスの感情でソーシャルメディアに【共有】されてしまうかもしれない。それは少し勿体無いことだ。この試みではCOLDPLAYのような圧倒的な一体感や【共鳴】を増幅させることはできない。

COLDPLAYは「誰もが気持よく参加できるから素晴らしい」

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COLDPLAYのケースでいうと、一定時間発光するグロースティックとは違い、曲に合わせたライティングを演出することができ、曲と周囲の観客との一体感が生まれる。

参加しているオーディエンスは無条件で周りのファンと感情を【共有】しあい、
誰もが気持よく参加できることで、アーティスト、会場、ファンの3つを見事に融合させている。

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ひとりも不快な思いになることなく、ライブ体験を最大化させ、その【共鳴】を【共有】させる仕組みを行なっている。だから、素晴らしい。そして、無条件でオーディエンスが参加できることだ。ノエルの場合、事前にこの施策をどれだけ認知しているだろうか?

COLDPLAYのライブは自然な形での参加必須はコアファンだけでなく、その場にいるライトファンにも影響をおよぼす。
(これだけすごい光景なら普段ライブで手を上げたりしない人も上げたくなりますよね)

その結果、コアファンもライトファンもひっくるめて、その場に集うすべての人がCOLDPLAYとひとつになって、参加する体験が生まれ、音楽の素晴らしさを体感し、それはかけがえのない瞬間となり、アーティストへのエンゲージメントも向上し、マネタイズも期待できる。

また、少し前の事例ではあるが、去年のビックビーチフェスのFATBOY SLIMも携帯やスマートフォンの画面に共通のアイコンを表示させ、会場を一体化させる取り組みを行った。

「EYEPHONE PROJECT」とはFATBOY SLIMのある特定の曲が流れたら参加者はiphone,ipod touch、ガラケー(Androidがないのが残念)で事前ダウンロードしておいた「EYEアニメーション」を起動させ全員がスクリーンに向かって掲げる。すると、会場には無数の『目』が浮かび上がるという仕組みだ。

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重要なことは、その場に参加している全員が気持よく参加できること、そして、【共有】したいと思うような体験を作り出すことだ。

テクノロジーの進化により、新しい音楽体験は広がった。
そして、音楽をドライブさせるツールとしてソーシャルメディアが存在している。
ファン心理をしっかりと理解した上で、テクノロジーやソーシャルメディアを活用することは、リアルでの【共鳴】を増幅させることができる。そして、それは唯一無二の体験となる。

体験共有の2つの前提を踏まえて新しい音楽体験を作り出す

ノエルの「INSTAGRAM」を用いたプロモーションは、この試みがなくともライブは何事もなく進むだろう。つまり、「なくてもいい」のだ。

ノエルのプロモーションも一部には不快に思う人もいるだろう。特に日本ではなおさらだ。しかし、撮影のタイミングや仕切りによっていくらでも改善することはできる。

ノエルとCOLDPLAYやFATBOY SLIMの決定的な違いは、2つある。そして、それが音楽体験を作り出す上でベースとなる。

①「ライブの演出の中にユーザが組み込まれて完成するもの」
②「オーディエンス全員が気持よく参加できる」ことである。

COLDPLAYのライブに参加したファンが、撮影した写真や動画が投稿できるページがある。これも「ライブの演出の中にユーザが組み込まれて完成するものであり」「オーディエンス全員が気持よく参加できている」という体験共有の前提がしっかりと守られている。

それは、人気の楽曲「Charlie Brown」の時にのみ発動される仕組みだからだ。

このように「然るべきタイミング」を理解した上で、実施するとリアルでの【共鳴】を増幅させることができる。同時に【共鳴】を【共有】へ回すというサイクルが一層加速する。

リアルをソーシャルメディアへ拡張することで、こうして【共有】され、見てみたい、参加してみたいという思いが生まれ、【共鳴】・【共感】・【共有】のサイクルが生まれる。

この「然るべきタイミング」こそが重要で、これは何もテクノロジーを駆使するときに使われるものではない。ライブの最中に「ここでは写真を撮っていいよ」や「この曲ではみんな撮影して、ソーシャルメディアで共有して」などといったことも含まれる。つまり、アーティスト(マネジメント)主導で実施されることが大切なのだ。

テクノロジーやソーシャルメディアと音楽を組み合わせることで、圧倒的な体験を作り出すことができる。それは、音楽体験から生まれる関心や好感を今まで以上に向上させることができる。

これからもっともっとリアルとテクノロジーやソーシャルメディアを組み合わせた事例が出てくることを期待してやまないし、僕自身もトライしていきたいと思う。インスパイアをくれたJAYくんに深い感謝を伝えます。

さて、明日から前夜祭も含めてフジロックが始まりますね!フジロックですよ!待ちに待ったフジロックですよ!僕は前夜祭から参加します!

フジロッカーズのみなさん、苗場でお会いしましょう!


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