『Biophilia』からみるbjorkの新音楽体験価値と協働創作

bjork

アイスランドの歌姫bjorkの新しいプロジェクトが話題になっている。
今回、bjorkが行おうとしているのは、音楽を超えた体験価値の提供だ。CDというフォーマットを超えて、様々なテクノロジーを駆使して新しい音楽の方向性を示そうとしている。

それが『Biophilia』だ。
crystaliine452.jpg『Biophilia』のプレスリリースによると以下のようなプロジェクトらしい。

『Biophilia』はマルチ・メディア・プロジェクトであり、スタジオ・アルバム、アプリ、新しいwebサイト、そしてカスタム・メイドされた楽器、ライヴ、教育的なワークショップから構成される。

bjorkは、アプリ開発者、科学者、作家、発明家、ミュージシャン、楽器製作者との共同作業を通じて、宇宙―その物理的な力、特に、音楽、自然、そしてテクノロジーが出会う場所のマルチ・メディア的な探検を創作した。

このプロジェクトは原子から宇宙まで、音楽的構造と自然現象の間にある関係性の探求よりインスパイアされたものである。(一部抜粋)

これを見ても何が何だかあまりにも壮大は話でよくわからないが、要はbjorkの考える原子レベルから宇宙へ到るまでの思想の中で、あらゆるテクノロジーと技術者(科学者や発明家までもいる!)とコラボレーションして、音楽、自然、テクノロジーを融合させた創作物らしい。

その『Biophilia』を実現させる手段として5つのプロジェクトがある。

スタジオアルバム

『Biophilia』は10曲を収録したスタジオ・アルバムの形で、今年後半に、デジタル、そしてフィジカルでのリリースが予定されている。

この楽曲は、『Biophilia』アプリにも収録されてはいるが、教育的、そしてゲームを目的としたものとなっているため、アプリ版は必要最低限のものだけを装備した形の収録となっている。

アルバムからのファースト・シングル”Crystalline”は現在発売中。ビョークの長年のコラボレーターであり、革新的な映像製作者であるミシェル・ゴンドリーによって、ミュージック・ビデオが制作されている。

このスタジオアルバムは本来はアプリとiTunesだけでの販売を予定されていたが、マネージャーからの進言により、フィジカルリリースも決定した。また、現時点で10曲となっている収録曲も今後、どんどん追加される見込みがあるらしく少なくとも「アルバム2枚分くらいまではいくかもしれない」とbjorkは語っている。

フィジカルでは難しいかもしれないけど、音源をアプリにしてアップデートするごとに曲が追加していくというのは面白いかもしれない。よくアルバムが漏れたものがEPとしてリリースされたりもするがそれをアプリという形ですでにあるものから追加というのは可能性として面白い。

アプリ

『Biophilia』のアプリは、10のアプリの集まりとなっており、1つ1つがアルバム収録のそれぞれの楽曲のために作成されている。これらのアプリは、宇宙進化の中心となる’mother アプリ’を通して、利用できるようになっている。

このプラットフォームは3Dの銀河系の役目を果たし、最初のアプリは星座が出現し、その後次々と加わってゆく。各アプリはそれぞれ(楽曲と関連性のある)テーマを持ち、音楽的な要素を兼ね備える。

各アプリのコンテンツは次のようなものを含む楽曲の科学的かつ音楽的な題材に基づいたインタラクティブなゲーム、楽曲のミュージカル・アニメーション、アニメーション化されたスコア、歌詞、そして学術論文、ゲームはその楽曲の音楽的な要素を操ることによって自分のバージョンを創りながら様々な音楽的機能を学ぶことが出来る。

ミュージカル・アニメーションとアニメーション化されたスコアは、伝統的な方法と革新的な方法で視覚的に音楽を描くことが出来る。学術論文は各楽曲、各アプリのテーマが音楽的にどの様に実現したかを解説する。

もはたアプリを超えたひとつのプラットフォームな印象を受けるがここまで造り込むことは驚愕である。

同時に逆にアプリを触る、世界観を感じるハードルが上がってしまうのではないかという懸念もある。私は正直、少し尻込みしてしまった。ただ、bjorkレベルだとここまでやらないと『Biophilia』を表現しきれなかったのだろうと推測する。

ライブ

『Biophilia』のライヴは、6月30日にマンチェスター・インターナショナル・フェスティバルで初めて公開され、その後、3年にわたり8つの都市で6週間におよぶレジデンシー・スタイルのライヴとして実施が予定されている。

それぞれの都市で、ビョークは1週間に2回『Biophilia』のパフォーマンスを実施する際にアプリを使用しながらカスタムメードの楽器を演奏し、アプリの中にいる様な気分にさせる環境を創る予定だ。

1週間の残りの日においては、会場で、現地の学校とコラボレーションをして様々な音楽授業が実施される。『Biophilia』のライヴは伝統的なライヴ会場でなく、特別に選ばれた場所やミュージーアム等において執り行われる。

また、bjorkは観客に親密感を体験してもらう為に、ステージから観客席の距離を6m以下、キャパシティは2,000人以下の会場のみでパフォーマンスを行う予定である。

体験を最も感じやすいのがライブであるが、会場を細かく設定していることからもこのライブで『Biophilia』を強く感じてもらう必要性があるのだろう。

ライブを通して、『Biophilia』を体験する。楽器を通して、『Biophilia』を感じる。bjorkを通して、『Biophilia』を聴く。

とても興味深い。

ちなみに下の映像は別の〈Gameleste〉と呼ばれるセレストの制作風景の映像

映像

90分に及ぶ『Biophilia』プロジェクトのドキュメンタリーがPulse Filmsによって撮影されている。

このドキュメンタリーによってbjorkのこのプロジェクトに向けて様々な要素を積み重ねてゆく創造性に溢れたプロセスが観ることが出来る。

bjorkのライヴ・リハーサル時の様子、スタジオでアルバム制作している様子、観察的な視点で撮られた映像、インタビューやこのプロジェクトが如何にして思い付かれ、実現に至ったかのデモンストレーションが収録されている。

また、音楽と自然界の魅惑的なリレーションシップを発見することも出来る。映像も含めた五感に伝える表現方法をこの『Biophilia』でbjorkはやりたいのかなという印象だ。映像の力で『Biophilia』を伝える。

この複雑怪奇な『Biophilia』を最もわかりやすく伝えられるのがドキュメンタリーだろう。第三者視点で描かれる唯一のものだ。このドキュメンタリーがbjorkと消費者、そして『Biophilia』プロジェクトをつなぐ架け橋のようなものにあたるのだと思う。

webサイト

bjorkのオフィシャル・サイトは、『Biophilia』のために、最新のHTML5の技術を利用して、リニューアルされた。

bjork-official
このサイトは、他のアーティスト・サイトとはまったく違うアーティストサイトを味わえるように動画やインタラクティブなアプローチが実施されている。

すべての要素を楽しめるように、また『Biophilia』のすべての情報の中心地として機能するよう、まるで実体験のように感じられる3Dの宇宙をイメージして制作されている一見してわかるように、一般的なアーティストサイトではまったくない。斬新すぎて、離脱してしまいかねないくらい強烈だ。

ただ、ここが『Biophilia』のターミナルにあたる。『Biophilia』を体験する入口であり、出口である。

以上のように、多大なる冒険心にあふれたプロジェクトである。キーワードはテクノロジーとリアルだろう。音楽というフォーマットの新しい配置転換をbjorkは行おうとしている。そこには多分にリスクもあるが、新しい『音楽体験価値』を示していると思う。

もちろん、bjorkだからという部分はある。

ただ、もはやアーティスト(バンド)という形態を超えた技術者、映像クリエイター、webディレクターなどといった横断的な協働コラボレーションプロジェクトというのは大いに参考になる。

今はもう解散してしまったがHope of the statesというバンドはバンド内に映像ディレクターを加えた7人編成だった。

よい音楽があれば聴かれるというスタンスはもはや難しい。今まではレコード会社にマーケティングを一任する時代だったが、これからは違う。マーケティングも含め音楽というフォーマットをどう表現するのかをアーティスト(バンド)自身が考え、実践していく時代ではないだろうか。

合わせてどこに種をまき、芽吹かせ、種子をどう風に運ばせて、着地させるのか。その際にソーシャルメディアに精通しているプランナーやアプリ制作会社、イベンター、様々なクリエイターと『協働』して音楽を発信し、伝えていく。

bjorkの『Biophilia』プロジェクトからそんなことを感じさせてくれる。

さて、この『Biophilia』プロジェクトにどうソーシャルメディアが絡んでくるのか興味深く見ていきたいと思う。

今回の5つのプロジェクトは以下の記事からの参考、引用させていただきました。
(RO69:OOPS!)


こちらの記事はTMHブログポータルの方にも転載いただいております。このブログは個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。