2011年11月、ついに日本においてSpotifyが始まる。
といっても、日本人ユーザがSpotifyを利用できるのではなく、
日本の音楽コンテンツを世界に発信するためにSpotifyが開始されるということだ。
詳細はGNTグループ会社ICJのプレスリリースを見てもらいたい。
【GNTグループ会社・ICJ、欧米の音楽配信でSpotifyと提携
~国内音楽事業者取りまとめ楽曲配信を橋渡し、初年度10,000 曲の配信を目指す~】
中身を見てみると、ICJが日本国内にある大手、中堅中小の音楽事業者を取りまとめ、Spotifyの1000万人以上の会員に向けて、Spotifyのサービスを通じて、日本の音楽を販売するという。
以上の点から、今回はSpotifyについて考えてみたい。
Spotifyの価値は「瞬間性」と「感情」をつなぐ「アクセス性」にある
個人的にSpotifyで最も素晴らしいと思うのは、「瞬間性」と「感情」をつなぐ「アクセス性」にあると思っている。
もちろん、Spotifyにはたくさんの素晴らしい点がある。
豊富な楽曲数、聴き放題、フル視聴、違法ダウンロードの減少、多彩なデバイス、ソーシャル連携などなど。しかし、それは別の機会で書こうと思う。(長くなってしまうし)
「この曲を聴きたい!」
それはすでに知っている曲かもしれないし、たまたま知った曲かもしれない。
どちらにせよ、その「瞬間」のユーザの「感情」を音楽へすぐさま「アクセス」できる点が個人的には魅力だと思っている。それはその音楽に対する過去も現在も自由に行き来することができる。
音楽の形が「所有」ではなくなっていくこの時代において、音楽の未来をある意味では象徴するサービスだ。(RhapsodyやDeeserのような同様のサービスもあるが)
もちろん、Spotifyにも弱点はある。
ただ、それをいま、論じることは適切ではない。
日本の音楽を世界に届ける新しい架け橋ができたのだ。
Spotifyのミッションは「アーティストにフェアな楽曲配信環境を提供すること」
僕はこのミッションには全面的に賛同する。
音楽を「届ける」市場を世界照準にするSpotify
今回の日本の音楽コンテンツをSpotifyを通して、世界へ届けることが可能になったこと、それは個人的にはとても素晴らしいことだと思っている。
もともと世界へ音楽を届ける音楽サービスないし、ソーシャルメディアはすで存在する。
それはiTunesであり、myspaceであり、soundcloudであり、bandcampであり、facebookである。
日本が誇るコンテンツ産業を世界へ届ける。
Spotifyによって世界照準の音楽ビジネスがさらに加速する。
参考:米国音楽配信市場規模の今後の予測(eMarketer調査レポート)
海外ではもはや店舗でCDを買うということが限りなく少なくなってきている。
アメリカでは音楽配信の売上が音楽全体の売上の43%近くになっていたり、その方法もiTunesのようなインターネット配信やsubscription(定額制の無料音楽配信サービス)やstreams(広告サポート型の無料音楽配信サービス)などがあり、配信先の多様化が進んでいる。そういった意味でも世界の流れはフィジカルからデジタルへ加速し、その中でもSpotifyは頭ひとつ抜けたサービスだと言える。
参考:2009年度音楽配信先別売上シェアIFPI Recording Industry in Numbers2010
ここでよく議論に陥りがちなのは、Spotifyのサービス自体に関するものだ。
Spotifyではアーティストは儲からないやSpotifyでCDはより売れなくなるといったものだ。
まずアーティストが儲からないというのは現段階では事実だろう。
こんなデータがある。
- 再生1回=0.0041ドル(約0.3円)
- アルバム全曲再生=0.04ドル(約3円)
- アルバム10回再生=0.4ドル(約30円)
- アルバム100回再生=4.05ドル(約311円)
- アルバム1000回再生(毎日1回を3年間レベル)=40.5ドル(約3110円)
Spotifyの無料ユーザーなら、Spotifyは広告から収入を得る。有料ユーザーの場合は、どんな風にお金が流れるかは大手レーベルにしか明かされていない。
さて、ここで思うのはSpotifyで本当に儲けたいと思っているのかという点だ。
上記のデータが真実だとして、日本の音楽コンテンツをSpotifyを通して販売した場合、ICJさんが仲介をするので、さらにお金は減る。
これだけ見ると、うーんという印象を受けるが、Spotifyで儲けることを目的に設定せず、いかに世界に音楽を広げる、届ける、伝わる価値に重きを置いた方がいいのではないか。
iTunesだって連続1位を取ったところで、儲けはさほどないだろう。
では、なぜiTunesはOKなのか?Appleしか絡んでいないからだろうか。
僕はSpotifyでできることは、「共有」と「共感」の醸成だと思っている。
そして、それが世界レベルで行えること。
Spotifyで「共鳴」は起きないし、ソーシャルメディアでも起きない。
「共鳴」は身体性を伴うリアルにしか起こらない。
共有→共感→共鳴から、もう一度共有→共感→共鳴へ。
螺旋のように円環を描きながら、人へ社会へ広がっていく。
「ソーシャルレゾナンス:共鳴」を太陽系の太陽のように中心点として、太陽のまわりを他の惑星がぐるぐる回転し、重なりあい、つながる。
そんな風に『円:サイクル』を生み出すところにソーシャルは価値を生む。
そういう意味で、Spotifyは音楽をたくさんの人に「共有」「共感」の機会を創出する。
自分の(もしくは担当するアーティスト)の市場をどこに設定するか。
日本市場か、アジア市場か、ヨーロッパ市場か、世界市場か。
その戦略に基づく上で、必要ならばSpotifyを使って種を蒔く。
もちろん、Spotifyだけじゃなくて、様々な音楽共有サービス、ソーシャルメディアを活用する。つまるところは、選定と戦略と戦術が重要ではないだろうか。
Spotifyで世界は変わらない。iTunesでも世界は変わらない。
ただ、そこに集う人によって世界を変える可能性があるということだと思う。
音楽は解放されて、新しいマネタイズの仕組みを作るべきだと思う。
その音楽を解放する、ひとつの可能性としてfacebookの新戦略がある。
facebook×Spotifyで音楽消費の仕方が変わる
先日、発表されたfacebookのカンファレンスF8によって、Spotifyとの連携が発表された。(厳密にはSpotifyだけじゃない)このfacebookの次なる戦略はSpotifyの可能性を圧倒的に広げたと感じている。
新しいソーシャルアプリによって、音楽に限らず、ニュースを読んだりという出来事が自動的に友人に伝わり、口コミを通じたメディア消費を飛躍的に拡大するという。
Open graphに対応した関連アプリを使うと「〇〇さんが〇〇という楽曲を聞いています」「〇〇さんが〇〇というニュース記事を読んでいます」というような情報が友人のページに表示される。
友人たちが同時に同じ楽曲を聞いているという情報は、基本「ティッカー」と呼ばれるリアルタイム電光掲示板に表示され、facebookシステム側で重要な情報と判断し、共通の友人のページの「ニュースフィード」に表示される。
ここに生まれるのは音楽を通したコミュニケーションだ。これがソーシャルグラフを通して広がっていく。
世界で8億人が使うfacebookという世界にSpotifyを通して音楽が世界を回る。
素晴らしい楽曲は今まで以上にリアルタイムで国境を超え、共有され、共感される。
楽曲だけでなく、アーティストページやアプリを通してなどで様々な音楽コンテンツがfaceboook上で活性化する。ここには大きな可能性があると感じている。
このfacebook×Spotifyの統合は、今回の日本の音楽コンテンツを世界へ届けることの大きな後押しになるのではないか。
二ールセンによる最新の調査によれば、アメリカ人は5月にFacebookで54億分を費やしているという。これはもはやひとつのコミュニケーションインフラになりつつある。いや、もはやなっているのかもしれない。
これからも縮小はするかもしれないけど、CDは生き続ける。
音楽の消費の仕方は確かに変わったし、これからも変わる。
facebook×Spotifyの話は別の機会に書きます。
人生に彩りを与えてくれる音楽
音楽は人生に必要ない。そんな人もきっと大勢いるだろう。
だけど、音楽はきっと人生に多彩な彩りを与えてくれる。
音楽で救われたり、笑ったり、泣いたり、心が痛かったり。
そういう人は、世界中にたくさんいるだろう。
音楽市場という大きな枠の中でそれぞれがそれぞれのビジネスの目的がありながらも、みんな音楽を届けたい、伝えたい。その想いはきっと共通なはずだ。
それはもちろん、Spotifyも同じなはずだ。
今回のニュースは、日本の音楽コンテンツをSpotifyを通じて世界へ届けることができるひとつの扉を開けてくれたように思います。
音楽を愛する理由は、たくさんの人が「サウンド」と「声」の中に、自分の中にあるものを聴きとることだと思う。
それは「共有」と「共感」という行為と感情によってソーシャルメディアで広がる。
その自分の中にあるもののを聴きとることが、Spotifyなどのサービスによって世界に広がることは素晴らしいと思う。
新しい時代における音楽のスタイルを歓迎しよう。迎え入れて、ともに一緒に音楽を伝えていこう。そんな風に思って、行動できたら素敵だなと思います。
こちらの記事はTMHブログポータルの方にも転載いただいております。このブログは個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。